三島由紀夫『潮騒』

仕事の合間に三島由紀夫『潮騒』を読む。

ずっと以前に読んだけれども、あらかた忘れてしまっていた。古典古代の小説の『ダフニスとクロエー』という羊飼いの少年少女の恋愛を下敷きにして、舞台を伊勢湾の「歌島」に移し替えて、猟師と海女の新治と初江の恋愛とその成就が描かれる。三島の他の作品では、愚かさや身勝手や醜さや滑稽さが暴き出されるのに使われる、鋭利な刃で切り込むように冴えた性格分析が、愛すべき純朴と善良さが、驚くべきくっきりとした陰影で描かれている。冷徹な目で見つめられた善良さが、独特なさわやかを残す。 

『ダフニス』はいわゆる牧歌(パストラル)で、それを日本に移し替えると、漁村になるんだ。「瀬戸の花嫁」は、確かにあれはパストラルの歌ですね。