必要があって、カール・ポパーが精神分析は疑似科学であると断じている有名な箇所を読む。文献は、ポパー『推測と反駁』藤本隆志他訳(東京:法政大学出版局、1980)の第一章にあたる。ポパーの理論は、私が大学に入って一番最初に授業で聞いて学んだ高等な知識の一つだったけれども、実は、この箇所を丁寧に読むのは初めてである。
1920年代にポパーが学んだウィーンでは、アインシュタインの重力の理論が学生を興奮させ、一方で、マルクス、フロイト、アードラーも理論も流行していた。ポパーは、アインシュタインの理論と、フロイトらの理論は、いったいどこが違うのだろうということを考えながら、「ある理論が科学理論と言えるための条件は何か」という問題に行き当たり、それは「反証可能性」であるという。ある理論が正しくないという反駁の危険性を伴った実験なり予測なりができるかどうか、ということを満たしていないものは、科学理論ではないとポパーは言う。そして、マルクス主義、精神分析、アードラーの児童心理学は、それぞれの仕方で、その条件を満たしていない。さまざまなことを「説明できる」理論、あるいは、あらゆることを説明でき、自らの理論を検証するような臨床例ばかり見つかってしまうような理論は、みかけ上は強力なようだが、実はそれが弱点である。