必要があって、飢饉の歴史をコンパクトかつ社会科学の洞察ゆたかにまとめた書物をチェックする。文献は、Ó Gráda, Cormac, Famine: a Short History (Princeton: Princeton University Press, 2009).
飢饉のときの人身売買などについてのメモ。飢饉のときにはしばしば人身売買が行われる。日本の戦国時代のケースも読んだことがあるし、ヨーロッパの記録では古代から一般的であった。AD450年には黒海地域で子供を買い戻すためのプレミアムを定めた法令まで出されている。これは主として親が子供を売るというパターンであった。しかし、飢饉があまりにひどく、このメカニズムが崩壊すると、子供を捨てたり殺したりすることが行われるようになる。子供を売りたい人が多すぎ、買える人が少ないと、値段がつかなくなってしまうということなのだろうか。
飢饉のときには人肉食(カニバリズム)も起きる。これがどの程度一般的であったかについては議論があり、飢饉の描写をよりリアルにするためのスパイス・アップであることももちろんであるが、信憑性が高い証拠に支えられた例もある。生きている人間を殺して食べるという本当に極限まで追いつめられた例はさせおき、ふつうは先に倒れた死者の肉体を食べることになるが、そこでは、死んだものの身体に対する宗教的な理解によって態度が変わってくるというから、仏教圏では人肉食は起きにくいという議論もあるそうだ。本当かどうかわからないけど。