『おとぎ草子』

大岡信が『御伽草子』を子供向けに現代語訳していることを知って、なんとなく興味を持って読んでみた。岩波少年文庫で、一寸法師、浦島太郎、鉢かづき、唐糸そうし、梵天国、酒吞童子、福富長者物語の七編が収録されている。

自分の無学を思い知った。知っていると思っていたお話に、想像もしていなかった豊かさがあった。たとえば「浦島太郎」の竜宮城には「タイやヒラメの舞い踊り」などの場面は描かれていない。その不思議さは水中宮殿のそれではなくて、地上の四季それぞれの景色が東西南北に同時に配されていて、東の戸をあけると春の柳が、北の戸をあけると冬の雪景色が広がる不思議さである。酒吞童子の鬼は都から姫君をさらって食べる恐ろしい鬼であると同時に、信義を尊び人間味があるとぼけたことを言う。(「この顔が赤いのは酒のせいで、鬼だからと思ってくださるな。」)多様な存在の共存を説くかのような部分すらある。むしろ、源頼光たちの方が、勧められば平然と人の血を杯で飲み、切り取られた人の片腕から刀で肉をそぎ落として平然と肴にする不気味さを持っている。「唐糸そうし」「梵天国」にいたっては、私が知らない話であり、どちらもとても面白かった。

これらの物語を、大岡信が流れるような文体で、子供向けの名訳をしているのだから、すばらしい書物になっている。私は小学校のヴォランティアで6年間「読み聞かせ」をしていた。『長くつしたのピッピ』や宮沢賢治から読むことが多かったけれども、その時にこの本を知っていたら、絶対にこの中から話を選んで読んだんだけど。また始めようかな。