必要があって、製薬業の新薬開発の環境変化についての論文を読む。文献は、ジュリア・ヨング「新薬開発をめぐる企業と行政-治験を中心に」工藤章・井原基編『企業分析と現代資本主義』(京都:ミネルヴァ書房、2008)、166-191.
企業は環境変化に対応して自らを変化させる。製薬会社にとって、技術革新も重要であるが、治験(臨床検査)の国際基準と医療行政における変化も、重要な環境変化となる。1976年の特許制度の改正ののち、日本の製薬会社は、海外で開発された薬を製造するのではなく、自社独自の新薬の開発に力を注ぐようなインセンティブを与えられた。しかし、日本で治験して、それを海外の当局に認めさせることは難しかった。患者の数も少なく、プロトコルに緻密に従ったものは少なく、インフォームド・コンセントも少なかった。これらの条件を満たさない日本の製薬会社の治験は「データの質が低い」として認められなかった。そのため、治験を外国でおこなう、海外における臨床開発にふみきった。そのため、日本の製薬会社が開発した新薬が、日本よりも外国で数年も先んじて承認されるという事態がおきるようになっていた。エーザイが軽度のアルツハイマー用に開発した「アリセプト」は、アメリカでは1996年に承認されたが、日本で承認されたのは99年であった。