ナチズムと寄生―体質のメタファー

アルフレート・ローゼンベルク『理念の形成』吹田順助, 高橋義孝訳(東京:紀元社、1942)
「異人種の行動としてのボルシェヴィスム」362-376
ユダヤ人が作った思想であるボルシェヴィスムが、なぜロシア‐ソ連に受け入れられたのかという問題を、ローゼンベルクとナチスにとって重要な概念であった「血」と病気のメタファーを使って説明した小論である。
 マルクスはユダヤ人であり、「国籍なきユダヤ人」であったから、「ヨーロッパ民族の真に形成的な力 [ すなわち民族の血の力 ] に対する理解」を持たず、その結果、共産主義を生み出した。この限界は、「血液的な制約」と呼ばれるべきものである。だから、共産主義は、真の民族でないユダヤ人によって担われており、それは他の民族や国家に入ってその血を吸う寄生虫のようなものである。ポーランドでもミュンヘンでも共産主義を担い、その背後にいるのはユダヤ人である。
 しかし、最大の共産主義国家であるソ連の指導者であるレーニンはユダヤ人ではないのに、なぜ共産主義というユダヤの寄生を受けたのだろうか。それは、レーニンは、「大荒原の子」であり、ヨーロッパとドイツの血とは違って、ユダヤに抵抗する血の力が弱かったのである。ロシアは、たしかにヨーロッパの民族であるが、その民族の力において惰弱であったのである。
 ここで使われているのが、寄生虫としてのユダヤ=ボルシェヴィスムと、寄生されるホストの側の体質としての血の力という、感染と体質のメタファーであることは明らかである。特に結核において、病原体と体質の両者からなる感染のモデルは当時の中心であったと思う。