小倉清三郎と相対会

第1組合相対会. 相対会研究報告 : 故小倉清三郎研究報告顕影会復刻. 銀座書館, 1986.
 
小倉清三郎(1882-1941)は日本の著述家と社会運動家で、初期の性科学と性の経験の著作を多く出版した。英語を学び、ハヴロック・エリスの書物などに影響される。性科学と性の経験についての多くの著作を書く。雑誌『相対』という機関誌を発行し、購読者から性の体験談を集めて刊行した。1922年に「手淫」に換えて「自慰」という言葉を考案して、それを用いることを提唱した。
 
『相対』に掲載された「相対会研究報告」という二巻本の翻刻があり、性の体験がこれでもかこれでもかと集められている。Wikipedia の記述によると、そこから現代の文庫本に収められて刊行されているものもあるらしい(私はそちらは読んでいない)。『相対』の読者は総じて教養が高い読者だったらしく、文章は達者で練られたものが多く、教養を示す引用もたくさんあり、露骨に低俗という感じはしない。一方で、これは印象論にしかなりえない話題だが、読んで春の想いがするようなエロティックなものは、ごく少ないと思う。春の想いを起こす文章を書くことは難しいということを実感する。また、読者がフィクションを書いているのか、かりに事実を書いているにしても何を選んで書いているのかというような、かなり難しい問題もある。しかし、史料の数も多いし、本気を入れて研究すると、20世紀前半の日本の性の仕掛けが色々と分かるマテリアルであることは間違いない。明日の話で軽く触れるために少しだけ参照した。