今日の英単語は naevus. 先天的な色付きの皮膚の変化というような意味である。医学史家ならば mother's imagination を思い出す言葉である。17世紀から18世紀のヨーロッパでは、母親の妊娠中に何かの理由で強い想像力が働くと、体内の胎児に影響が現れるという信仰が継続していた。何冊もの研究書が出ているが、最近のものは読んでいない。18世紀初頭のイングランドでは、母親がネコやウサギやウナギの身体の断片を産んだという騒ぎを起こした事件がある。Mary Toft という母親が主人公の面白い話である。ネコの足を産んだという話は、さすがに孤立的なものけれども、母親の想像力のせいで子供の皮膚に影響が残るということは長期的に信じられていた。その影響を naevus という。
その日本語訳を調べてみたら、母斑(ぼはん)である。この母斑という言葉はよく知らなかった。日本国語大事典を引くと、「一般に先天的に皮膚上に存在する、斑紋の総称。黒色、褐色、青色などのもの、色素脱失を示すものなど種々の色調のものが含まれる」という説明があり、19世紀の初頭の用例が惹かれている。「眼科新書〔1815〜16〕」の「眼瞼桑椹腫〈略〉以母班之治法療之」という用例である。母斑の「斑」は色という意味だろうが、「母」というのはどのような概念なのだろうか。<先天的に>という部分に<母親のお腹>との近さがあるのだろうか。知っている方は教えてください。("ぼ‐はん【母斑・母班】", 日本国語大辞典, JapanKnowledge, https://japanknowledge.com , (参照 2018-10-16))
「ほくろ」という言葉の形成にも母がかかわっている。もともとは「ははくそ」という言葉があり、これは小さな母斑であるアザを、子宮内で母親の糞(くそ)にさらされた影響と考えられていた。その色が黒いことから、「ははくろ」という言葉が作られ、ハハクロ→ホークロ→ホクロという形成があるとのこと。これはウィキペディアで知った議論です。
状況はよくわからないが、子供の皮膚の変化への影響を、英語では mother's imagination と表現し、日本ではそれを母斑といったり、ほくろといったりするという基本をメモしておきました。