モクサ・痛み・マジャンディ


Rey, Roselyne, The History of Pain, translated by Louise Elliot Wallace, J.A. Cadden, and S.W. Cadden (Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 1995).

ロゼリン・レイの『痛みの歴史』から、モグサと痛みについての議論、1847-8年の麻酔革命のときのマジャンディの言葉を引用した。

日本や中国の「モグサ」moxa は、17-18世紀から、イエズス会やオランダ人の報告があってヨーロッパでも知られていた。「モクサ」が効くメカニズムは、痛みが治療的な効果を持つからであるという点に要約される。
ヒポクラテスは、痛みは、身体のある部分に病気を起こしたり、そこに病気を呼び寄せる準備をすると言っているので、もともとの痛みよりも鋭い痛みを人工的に作り出せば、もともとの痛みが相対的に減少し、その効果が無化される。少なくとも、この方法は、病気を追い出し、益となる変動を与える。それゆえ、ヒポクラテスが痛みを与える療法や、発泡膏などを用いて、人体における自然が眠ってしまったときは覚醒させ、それだけでは不十分なときには刺激してその活動を高めようとしたのである」「痛みは、分解され、まぎれのない強い痛みから、快感に非常に近い感覚にいたるものまで、さまざまな段階において、皮膚刺激を行う」「我々の(ヨーロッパの)綿でできたモクサは、それが用いられた皮膚に短い時間で働き、とても熱くて痛みを与える。しかし、日本のモクサが与えるのは、痛みではなく、感受性が鋭い個所で注意深く観察すると、ある種の振動であり、不快感と快感の中間のような感覚である」


マジャンディ(Fran?ois Magendie 1783-1855)は、1847年から48年に麻酔が導入された時に、「これは倫理的だと思われない。我々は、同胞たる人間に実験する権利を持たないからである」「エーテルの効果が語られて、報道が飛びついて誇張して流しており、大衆が不思議なことや不可能なことを求める欲求を満たしている。ここに見られるのは、痛みがない手術をめざすという、それ自体は確かに素晴らしい目的のもと、患者を麻酔して自由自在に切り刻むことができる死体のようなものにしてしまいたいという医者たちの要求である」
クロロホルムによる死亡が疑われた例が、医学アカデミーによって審査され、最終的には麻酔を認めることになった。

画像は月岡芳年「あつさう」