東京のスモッグと小学生における心因性疾病の集団発生ー1970年代と80年代の見解の大きな違い

Araki, Shunichi and Tetsou Honma. "Mass Psychogenic Systemic Illness in School Children in Relation to the  Tokyo Photochemical Smog." Archives of Environmental Health, vol. 41, no. 3, 1986.
 
東京の大森の中学校などで1970年から1972年に起きた、胸の痛み、頭痛、頻呼吸 (tracypnea)、興奮状態などの症状が集団的に発生するという事件。1970年6月の43人に始まって、1972年の7月から8月にかけての10人の小中学生たちがそのような症状を訴えた。これは「東京スモッグ」による公害の一種であるとされ、空中にどのような化学物質が浮遊しているのかが議論された。それから15年たって、もう一度検査してみようという論文である。1970年代に測った指標と現在の指標を較べるという方法で、そのような訴えが、本当に物質的な原因を持っていたのかという問いである。これは、心因性であり、心因的で集団的なものであると結論している。1970年代に実際に公害によるものだと多くの人々が考えた理由は、まず公害が持ってた衝撃の問題が大きかったこと、精神疾患というか、心因性集団ヒステリーが実際に流行するかのように起きることを認められなかったこと、子供たちが仮病をつかっていると主張するかのようで、そのことが大きなタブーだったことなどがある。
 
症状が実際に化学的な有害性を持つ物質によって起こされる場合と、それが心因的に起こされる場合は、連続的になだらかに変化していくものである。どのように対応すればいいのか、本気で悩む問題でもある。リスクの議論とも深くかかわっている。