1900年のアヘンチンキの国際比較

日本の薬学の歴史において、<日中薬用量相違>という問題がある。私が知る限りでは貝原益軒『養生訓』が最初にそれを指摘している。それから300年ほど続いている(と思う)大きな謎である。

簡単に言うと、同じ薬であるのに、日本と中国を較べたときに、薬の量が日本はとても少ないという点である。同じ年齢、同じ性別、似たような程度の症状であるのに、だいたい1/3 から 1/10 くらいの、ものすごく少ない量で、日本においてはその薬が効く。日本は1匁、中国では3匁から10匁すらが一服である。なぜかという問いに対して、貝原益軒は3つの要因を出している。以下のサイトの第7巻を読んでいただきたい。

www.nakamura-u.ac.jp

 

実は、同じような現象が19-20世紀の日本において西洋の薬と並行して起きているかもしれない。上村直親と林春雄の二人の医師が書いている『日本内科全書』の「薬物療法」を読んでいたら、よく似た事例があった。1900年近辺であるが、ヨーロッパ各国と日本を較べると、同じ薬の名称だが、そこに含まれている量が違うということである。これは「アヘンチンキ」という名称の薬剤で、モルヒネの割合はどのくらいかという話である。一覧表にするとこうなる。

日本    0.4-0.44%
イギリス  0.75%
ドイツ他 1.0%
合衆国 1.2% - 1.25%

江戸時代の日中の比較と同じように、アヘンチンキでは日本はアメリカの1/3のモルヒネの強さしかない。もちろん、日本のアヘンチンキは薄いから量はアメリカの3倍だけ使うというなら、一貫している。でも、たぶん違うような気がする。日本人が使うモルヒネアメリカ人の 1/3 であるような気がする。どう調べればいいのか、これまでしたことがないけれども、少し調べてみよう。エール大学のウォーナー先生の見事な分析を引用する箇所になると思う。