松田道雄と貝原益軒の女性観

貝原益軒 and 松田道雄. 貝原益軒. vol. 14, 中央公論社, 1969. 日本の名著.
 
松田道雄という医師であり、深い洞察があり、未来のあるべき姿を唱え、それを確実に実行する力がある評論家がいた。1967年に岩波書店から刊行された『育児の百科』は、とても優れた育児書で、写真も可愛いし、いわさきちひろの挿絵も詩情がある。私たちは何千回となくこの書を参照し、ある意味で愛読書であった。ただ、もちろん正しい部分と正しくない部分がある。年代で言うと1960年代には正しかったが、私たちの1990年代にはうまく合わない部分が出てきて、2020年には過去の古典になったという部分があると思う。もともと、1990年代にこの本を推薦してくれたご夫婦が、専業主婦制だったことも何か意味があるのだろう。
 
その松田が貝原益軒の著作集を訳した著作集がある。貝原は読んでとても楽しいが、訳出の部分に1960年代の軋みを感じさせる部分もある。特に、女性に関する問題に関しては、問題が多すぎる(笑)江戸時代の代表的な教育論である『和俗童子訓』の最後に「女子を教える法」という部分がある。男子と女子は大きくなると鮮明に異なる役割を満たし、そのための特別な美徳を女性は磨くべきだという議論である。このタイプの議論は、中世以来のヨーロッパでも存在する。より踏み込んで悪い議論を展開しているのは、私が持っている版だと一番最後の「心におこる悪い病気」という部分である。メモのために移しておく。
 
「およそ婦人の心におこる病気は、和順でないのと、怒り恨むのと、人をそしるのと、ものをねたむのと、知恵がないとのことである。およそこの五つの病は、婦人には十人に七、八人はかならずある。これ婦人の男子に及ばないところである。みずからかえりみ、戒めて、改めなおすがよい。この五つの病のうちで、ことさら知恵がたりないのを重しとする。知恵がたりないために五つの病がおこる。婦人は陰性である。陰は夜に属して暗い。だから女性は男子にくらべると、知恵が少なくて目の前にある当然の理も知らず、また人から悪くいわれるであろうということもわきまえないで、自分の身、自分の夫、自分の子供の禍となるべきことを知らず、罪もない人を恨み、怒り、あるいは人を呪い人を憎んで、自分だけいい子になろうと思うけれども、人に憎まれうとまれて、みなわが身の仇となることを知らない。まことに浅はかであさましいことだ。」
 
女性の多くは心におきる病にかかっていること、そして the theory of yin-yang and five elements (陰陽五行 yin-yang wu xing)  を用いて、女性の陰性と理の欠如を結び付けている。数字で言うと四分の三。これは憶えておく。