占星術と体液論と20世紀医学

www.forbiddenhistories.com

 

先日紹介された Andreas Sommer 先生のウェブサイトである Forbidden Histories. そこに掲載された面白い記事があった。メモというより私の説明かもしれない。 

占星術と体液論は、古代・中世・初期近代の医療の核であった。同時代の自然哲学に支えられ、実際に医師たちが使い、最も重要なことだが、教養ある患者たちが需要するものであった。この事態をどのように解釈するかという問題がある。ことに、HSS (Humanities and Social Sciences) の医学史家にとっては、現在の医師たちや進歩主義的な過去を見下すような態度を示す人々と話すときには、この問題は非常に重要である。現在と較べて治療力が低い体系の医療を行っていた過去をどのように捉えるかである。

体液論は人間の四つの体液の考えだが、この背後にあるのは四元素と呼ばれる地水火風が、どのように個人の身体と精神に影響を及ぼすか、そしてその乱れをどう直すかという考え方である。その四元素を表現するために体液も四つあるという考え方だという前提を受け入れると、とてもよくできている。ことに、熱さや冷たさ、湿気があるか乾いているかという、直接的な感覚が支える自分や他人の状態である。これを頭に入れて症例誌を読むと、半年くらいで体液論がよく分かるようになる。これはどの程度本当かどうか分からないが、東大仏文の故渡辺一夫先生は調子が悪いから瀉血をしてほしいと本気で言っていたという。私はそれと同じようには思っていないが、現代医療の恩恵を知らないのであれば、たぶん瀉血や浣腸をしたいという感覚的な実感を持つと思う。

占星術も基本的に同じで、天体と世界の様子が、どのように個人に影響を及ぼすかという枠組みである。ただ、私はこのタイプの史料を本気で読んだことがないし、これは中世においても議論が分かれた部分である。でも、体液+天体は私はまだ古代から継続していて、色々な脈絡で現れるものだと考えている。

体液論や占星術の考えと、20世紀の治療力が非常に大きくなった医学と比較するときに、このようなことを考えておくと、意味がある議論ができるだろう。