c.1920年の演歌『調査節』

1920年の第一回国勢調査が象徴するように、国民の調査は日本社会の中に確立した。これらは過去の人々、そして現在のわれわれが当時の状況を把握できるようになり、社会科学にとっては不可欠である。一方で、これを調査者と調査される方の視点で考えてみると、調査される方は自分たちの生活を権力側や知識人側に伝えて、彼らは行政や知識や業績や運動を作り出すが、それらが自分たちの生活に関係があるかというと曖昧であるというパターンが多いこともある。そのため、調査に対する態度はたいがい両義性を持っている。労働者の問題とかかわろうとする知識人たちに「なんだい、この、蒼白きインテリ野郎が」とタンカを切る演劇の場面では、客席におこった爆笑と、スクリーンへの拍手まであったという。「観念の操作にとどまる知的感度と、具体の感得とが密着したものにならなかったのだ。具体的感得者である民衆の目は、知的なうきあがりをすぐ滑稽とみる」という。
 
1920年頃に歌われた演歌に『調査節』があり、以下のようなものである。
 
調査々々がメッポーカイに流行る
あれも調査よ 調査々々
これも調査で ノラクラ日を送る
おめでたいじゃないか ネ―あなた 調査々々
 
外交調査会 細民調査
小売商暴利も 調査々々
政経済 ノラクラ日を送る
おめでたいじゃないか ネ―あなた 調査々々
 
物価が高くて困ってしまふ
どうかならぬか 調査々々
どうかならぬかで ノラクラどうもならぬ
おめでたいじゃないか ネ―あなた 調査々々
 
神経衰弱また行路病者
精神病 花柳病も 調査々々
糞尿問題 生活の行詰まり
おめでたいじゃないか ネ―あなた 調査々々
 
橋の袂(たもと)に行路病者(ゆきだおれ)がゴザる
どこの誰やら 調査々々
手帖鉛筆ひねくる間に息が絶え
おめでたいじゃないか ネ―あなた 調査々々
 
海に水路あり 空には航空路
そうだそうだと 調査々々
空の上までやっとこさとお気がつき
おめでたいじゃないか ネ―あなた 調査々々
 
調査々々で幾年過ぎた
この先いつまで 調査々々
明けても暮れても調査々々 また調査
おめでたいじゃないか ネ―あなた 調査々々
 
川合, 隆男. 近代日本社会調査史. 慶應通信, 1989.
添田, 知道. 演歌の明治大正史. vol. 青版-501, D144, 岩波書店, 1963. 岩波新書.
 
この部分も書いておくと、この現象は私にはよく分からない。ものすごく印象論的なことを言うと、いまから20年以上まえに、私自身が子供を連れて街に出るときに経験したことであるが、ロンドン、スコットランド、京都などでは、個人と個人の間、あるいはグループとグループの間は社交的に開かれていた。多くの人々がまだ小さかった娘に声を掛けて「何歳?」とか聞いてきた。(もちろんそれで終わりである。)一方、東京やイタリアの諸都市においては、知らない人に声を掛けるということは非常にまれであった。もちろん東京の人達も知人の子供にはにこやかに声を掛ける。