山下麻衣さんの『看護婦の歴史』(2017)をご恵贈いただいた。山下さんは、新しい視点の看護の歴史と着実な実証の手法を組み合わせた研究者で、長いこと教えられることが多かった。まずは序章だけを読ませていただいたが、欧米での新しい看護の歴史の研究の進展のまとめ、日本での古い看護史研究における視点、そしてこの書物における視点の選択という構成。これが、深く広い研究の実践だけが可能にする簡潔な明晰さを持つ、序章のお手本のようなものになっていて、大いに勉強しました。学生と教師の皆様も、ぜひご参照ください。
山下麻衣さんの『看護婦の歴史』(2017)をご恵贈いただいた。山下さんは、新しい視点の看護の歴史と着実な実証の手法を組み合わせた研究者で、長いこと教えられることが多かった。まずは序章だけを読ませていただいたが、欧米での新しい看護の歴史の研究の進展のまとめ、日本での古い看護史研究における視点、そしてこの書物における視点の選択という構成。これが、深く広い研究の実践だけが可能にする簡潔な明晰さを持つ、序章のお手本のようなものになっていて、大いに勉強しました。学生と教師の皆様も、ぜひご参照ください。
日本における夢の記録、幻想の記録、妄想の記録は、西欧の精神医学の導入よりもずっと以前から独自の伝統を持っていた。
夢に関しては、仏教の中に、人々が見た夢を記録し、それを解釈することが、中世から近世にかけて行われて社会に広く定着していたと考えられる。ここでは、いくつかの例を挙げるにとどめよう。明恵上人(1173-1232)は、華厳宗の中興の祖と言われた名僧であり、彼の弟子たちが書いた伝記は、『梅尾明恵上人伝記』として保存された。この書物は、1665年(寛文5年)と1709年(宝永6年)に刊行され、江戸時代の社会に広く普及した。同書を開くと、明恵上人その人や、彼の家族や友人・朋輩たちが観た夢が記され、これらの夢が実世界の事件を予言し、人々が未来に取るべき行動についてヒントを与えるパターンがよく見られる。たとえば、明恵が生まれる前に、明恵の父が京都嵐山の寺の法輪寺で祈っていたところ、夢に一人の童子が現れて、願いをかなえるといって針で父の耳を刺す夢を見たことが記され、母は京都の頂法寺の本堂である六角堂で強を唱えてお堂の周囲を一万遍めぐったところ、金柑を懐に入れる夢を見たと記されている。針で刺されることと、金柑が懐に入ることが、ある夢の解釈法を通じて、明恵が生まれることを予兆するという夢の解釈になっている。(12-13)
あるいは、明恵が7歳の時に、彼の養母が見た夢として、子供の明恵が白い服を着て西に行こうとしたので、白い布で柱に縛り付けたが、引きちぎって去ってしまったと記されている。この話を聞いた高尾の文覚商人は、唐の玄奘三蔵の母もほぼ同じ夢を見たことを指摘し、明恵が仏教に身を捧げる生涯を送るだろうと述べた。(18-21) また、明恵本人が学僧であった時に見た夢は、より直接的な教育の形をとり、現実の世界の僧に尋ねても理解できなかった宗教上の疑問点について、夢の中にインド僧が現れてそれらを一つ一つ解釈してくれた内容になっている(27-29)
このように、明恵上人の伝記を見れば、さまざまな夢が語られ、記録され、解釈されるという一連の行為が、テキストの中に縦横に織り込まれており、そのようなテキストは江戸期に刊行された宗教書を通じて、広く日本の読者に知られていたことであった。
明恵, and 洸 平泉. 明恵上人伝記. 講談社学術文庫. Vol. [526]: 講談社, 1980.
Artemidorus, Daldianus, and 良和 城江. 夢判断の書. 叢書アレクサンドリア図書館. Vol. 2: 国文社, 1994.
Freud, Sigmund, and J. A. Underwood. Interpreting Dreams [in Translated from the German.]. London: Penguin, 2006.
演題募集
病院の歴史 / 歴史の中の病院 ― 学際的アプローチ
開催日程:2017年3月17日・18日
現代の世界において、<病院>は重要な医療機関となっている。病院は、ヘルスケアシステムの中核に存在し、出産と死亡が起きる場所になり、多様な医療職の人々が雇用されて労働し、最新の医学技術のイノヴェーションの場であり、それぞれの地域にとって重要な施設である。もともと、病院はキリスト教やイスラム教に端を発してヨーロッパとその影響を受けた地域で発展したが、19世紀の末以降に根本的な性格の変容を遂げ、20世紀には世界各地で劇的な成長をしてきた。
病院は社会史、ジェンダー史、技術史、患者の歴史などの多様な領域において、歴史学者たちの関心の対象となってきた。しかし、これまでの病院の歴史の研究者たちは、それぞれの既存の領域の中にある意味で閉じ込められてきて、意見を交換する学際的な場を持たなかった。このワークショップは、このような状況を打開して、多様な領域の病院の歴史の研究者たちが意見を交換し、相互に刺激を与え、病院の歴史の学際的な発展を図ることを目標にする。主たる主題の事例を掲げると、以下のようなものになる。
これ以外の主題も含めて、学際的な議論を通じて、新しい病院の歴史を日本と世界で開拓するワークショップを目指している。
このワークショップは英語で行われる。報告を希望する研究者は、英語で200-300語の要約と、100-150語程度の自己紹介の二つのファイルを作り、2016年12月20日までに、3人の組織者のいずれかに送ること。報告時間は20分程度+ディスカッションとなる。
組織者
ピエール=イヴ・ドンゼ(大阪大学) donze**econ.osaka-u.ac.jp
勝木祐仁(日本工業大学)ykatsuki**nit.ac.jp
鈴木晃仁(慶應義塾大学)akihitosuzuki2.0 ** gmail.com
(** はアットマーク @ )
Call for papers
History of Hospitals – Hospitals in History:
a multidisciplinary approach
Hospital is today a major medical institution throughout the world. It is at the same time the core of health care systems (where more and more people start and finish their life), a place of employment and work for doctors and health professionals, the location of the newest medical technology, and an important institution for local communities. Moreover, although hospitals are an old institution in Western Europe, their nature changed fundamentally since the end of the 19th century and they experienced a dramatic growth throughout the world during the twentieth century.
Hence, hospitals attracted historians for various disciplines, from social history to gender studies, through history of technology and history of patients. Yet, the “history of hospitals” is not an academic field in itself, rather cases studies tackled by scholars from established disciplines in social sciences, who have not often the opportunity to meet and exchange. Consequently, the objective of this workshop is to assemble scholars from diverse fields and to offer a platform for exchanging ideas and overcoming academic barriers. Among other research topics, contributions on the following subjects are welcome:
Scholars interested to join the workshop must send a short abstract (200-300 words) and a short biography (100-150 words) to the three organizers until 20 December 2016.
Venue: Osaka University, 17 & 18 March 2017
Organizers:
Pierre-Yves Donzé (Osaka University), donze*econ.osaka-u.ac.jp
Yuji Katsuki (Nippon Institute of Technology), ykatsuki*nit.ac.jp
Akihito Suzuki (Keio University), akihitosuzuki2.0 * gmail.com
* represents @ for email address