女性美の医学的・人類学的研究


必要があって、20世紀前半の医学・人類学が、日本人の身体、特に女性の身体をどのように分析した書物を読む。文献は、C.H.シュトラッツ『日本人のからだ―生活と芸術にあらわれた―』高山洋吉訳(東京:岩崎書店、1954)この書物のオリジナルのドイツ語版は1925年に出版されたものである。シュトラッツ自身も日本に滞在してリサーチをしているようだが、ベルツの写真や記述などが多く用いられている。どの段階で生じたミスか分からないけれども、図版と本文が対応していない箇所が目につく。

主張のポイントは、「日本文化の水準はヨーロッパと違う意味で高いし、日本の女性はヨーロッパとは違った意味で美しい」ということである。これを、美術作品を素材とした文化比較の方法と、写真と身体の部位の比の測定に基づく自然人類学の方法で論じた本だと思えばいい。シュトラッツについては、Michael Hau, The Cult of Health and Beauty in Germany (2003)が比較的詳細に論じているが、そこで分析されているよりも、はるかに深みと複雑さをもった現象である。この人物の著作は、『女体美大系』のような形で大部なものが翻訳されており、この翻訳も含めて興味深い。西洋の美の基準が外国に押し付けられ、非西洋の男も女もそれを内化するという過程は確かに存在する。それと並行して、日本の知識人や日本の美の基準などが外国に発信されて、西洋に一つの身体の美の基準を作るという動きも確かに存在した。19世紀から20世紀にかけて、そのような「多様な身体美の基準」がグローバルに形成され、各地域でローカルに再解釈される動きが存在したということになる。

図版は、Hau の書物から作成した、西洋と東洋の美の基準。