発酵の文化

小倉, ヒラク. 発酵文化人類学 : 微生物から見た社会のカタチ. 木楽舎, 2017.
 
発酵文化人類学という面白いタイトルの本があったので目を通した。大学時代には文化人類学を学び、そこから発酵という自然科学と科学技術の主題を取り上げることを考えた。これを「生命工学と社会学の交差点」と呼んでいる。面白い。
 
その中で、発酵文化の見取り図というタイトルで、ヨーロッパとアジアの対比で考えて居る部分があるのでメモ。中国を中心とする東アジアエリアと、かつてのメソポタミアローマ帝国一帯から西のエリアでは発酵における文脈が違うという議論である。正しいかどうかは別の問題だと思うけれども、面白い。
 
西の発酵はパン、ビール、ウィスキー、ワイン、シードル、チーズやヨーグルト。メジャーな原料をシンプルに醸す文化である。東の発行は、日本酒や紹興酒などカビを使った穀物酒、豆や麦を醸した調味料、ココナッツの果汁を酢酸菌の一種でゼリー状にしたナタデココ。特筆すべきはカビ。和食、韓国料理、ベトナム料理やインドネシア料理に共通する「旨み」を作り出す発酵カビ。これらはハードコアで地域性と多様性。また、スタンダードな発酵はパン、ヨーグルト、ビール、醤油と味噌など、どの文化圏の人にも好かれる。一方、ローカルな発酵は、キムチ、ブルーチーズ、ウィスキー、熟れ鮨、中国の臭豆腐であるとのこと。
 
これはジャック・ル・ゴフが、ヨーロッパはワインとパンの文明とビールとソーセージの文明の二つに分かれるというコメントを使った状況を、新しい発酵学で読み直すようなことだろう。