昨日書いたクリステヴァのマテリアルから、まず神話を見つけて、それに関するメモを書いてみた。ハイデガーとクリステヴァも挟み込んだヴァージョンも書いておこう。
*******
昨日書いたクリステヴァのマテリアルから、まず神話を見つけて、それに関するメモを書いてみた。ハイデガーとクリステヴァも挟み込んだヴァージョンも書いておこう。
*******
Cultural crossings of care: An appeal to the medical humanities | Medical Humanities
医学論文を読むと、新療法が出てきてうちの研究室でもやってきたらこうだったという追試の論文をよく読む。すごく効くとか、まあまあだとか、そんな感じの論文を数限りなく読んできた。今回、生まれて初めて、新療法がまったく効かなかったという論文を読んだ。良好な成績だったのは十例のうち一例もなかったという。現地で何があったか知らないけれども、少し気持ちが改まった(笑)
下村, 八五郎. "「チフス」保菌者ノ「テトラグノスト」治療後ノ排菌状態ニ就テ." 日本伝染病学会雑誌 6, no. 5 (1932): 501-09.
これは九大内科の小野寺が開発した保菌者のチフスを治す療法である。これは従来のあらゆる方法よりも優れたものだとされ、小野寺が実際に台湾にきて、台北市伝染病院稲江医院でも、小野寺に教えられたものが実際に行い、昨年秋には小野寺が自ら来てそれを実際におこなった。そして、保菌者の監視を命じられたので、その10名に関して実績を紹介したい。
その結果は、以下のようである。「新しき保菌者も古き保菌者も、年中いかなる時期に行った治療も、男女に関せず、年齢によらず、内地人と台湾人、チフス経過の有無、腸チフス、パラチフスAB、チフスの菌型の如何を問わず、良好な成績を示したものは一例もなかりき。」
ついでにその一覧表を掲げておく。
A visit to Brookwood Aslyum in the 19th century | Medical Humanities
イギリスのサリー州のブルックウッド精神病院の記録が整理されて目録が公開されている。このような体制を日本でも作り上げて、水準が高い医学史研究ができるようになることを私たちは目標にしている。
この精神病院に関する展示で、ある患者の一生を知り、詩作がされて、イギリスの雑誌 Medical Humanties に掲載された。19歳で「ほかに行き場所がなくて」精神病院に行き、そこで終生を過ごした。このような患者は数としては一握りだが、やはりインパクトがある。詩作も、精神病院を囲う壁の中での苦しみを歌っていて、わかりやすい。
Between these four walls I exist
Alone silence echoes
Yet I hear despite this
Fear pounding through the walls,
So loudly, it bellows
Between the throbbing I decay
Delayed I pause, patient
Expecting to leave soon, afraid
That day will never come
I wait, waste, mind vacant
Between the dark some clarity
Explaining why Im here
Lunacy apparently
Justifies this treatment?
To me this is un- clear
アノイリナーゼ菌というビタミンB1を破壊して脚気を起こす菌とその保菌者についての論文をたくさん読んだ。
たとえば、高頭、敬子. "腸内腐敗の研究 Ii ". ビタミン 5 (1952): 363-68.
この一連の仕事は、1953年に新潟医科大学の博士論文となった。この研究の指導教官は新潟医科大学の桂重鴻(かつら・しげひろ、1895-1989) である。桂は、1950年代に新潟の精神病院の患者100名ほどを用いて、ツツガムシの研究を行い、患者8名がそのため死亡(うち1名は自殺)という人体実験による深刻な医療事故を招いた。いわゆるツツガムシ病事件である。桂は、昭和13年には台北帝大の教授となり、引き上げのあと熊本医大、新潟医大教授というキャリアを歩んでいる。
このアノイリナーゼ症の研究は、科学研究費を取得して、研究室の若手研究者たちを総動員して、おそらく患者も短期間でかきあつめて、短期間で成果を集中的に上げるという総力戦のスタイルである。
ツツガムシ事件については、きちんとした研究がないのだろうか。昔の医療ジャーナリストの仕事を買ってみた。
Dostoyevsky, Fyodor M. "現代生活から取った暴露小説のプラン." In 後期短編集, 181-94. 東京: 福武書店, 1987.
Dostoyevsky, Fyodor M., and 正夫 米川. ドストエフスキイ後期短篇集. 福武文庫. Vol. と0202: 福武書店, 1987.
ドストエフスキイは私が「まだ読んでいない」偉大な作家である。教養人としても、学者としても、なぜこの偉大な作家で精神疾患の問題を深く織り込んだ作品をきちんと読んでいないのか、私が自らを問い詰めたい(笑)
今回は、まったく違う話の流れから読んだ短編作品だけれども、やはり偉大な作家の優れた文学作品であるだけでなく、学術的にも私が知っておかなければならなかった話である。文学作品としては、身の回りにたくさんいるし、なによりも私自身がとてもこの物語の主人公にとても似ている。うううむ。
学術的に一つの重要なことは、ロシアの作家であるゴーゴリが1835年に刊行した『狂人日記』という作品をなぞった構造になっていること。ゴーゴリの作品は、サンクトペテルブルクの下級官僚の不安と精神疾患への転落を描いた作品である。この作品に触発されて、中国の魯迅の『狂人日記』という作品を1918年に書いている。同時代の日本は精神疾患についての小説、詩、映画などの黄金時代に入った。これは、作品が作品に影響を与えるという文学の世界の中での影響関係もあるけれども、精神病院という新しい社会システムに注目すると、面白いのかもしれない。19世紀中葉のロシアもそうだし、20世紀初頭の日本もそうだが、精神病院というのは新しい社会システムで、それがある種の衝撃を持って社会に入っていくことと考えられないだろうか。
大英博物館の会員誌が来た。9月14日からスキタイ人(スキティア人)の文化についての大きな展示があるとのこと。素晴らしい企画で、思わず見惚れてしまう。これと関連して、11月から「神々と生きること」という企画が始まる。世界各地のさまざまな人々の宗教のありさまを問い直すもので、宗教に端を発するテロリズムの中で混迷している世界に大英博物館が出すメッセージである。この企画は、先代の大英博物館の館長だったニール・マクレガー先生が監督していると知人に聞いたことがある。これも、大英博物館がふんだんに所蔵している品物やデータを駆使したものになるのかと思うと、BBC Radio 4 で提供される連続ラジオ番組であるとのこと。この大英博物館が提供する連続ラジオ番組の底力は、すでに知っている。
スキタイ人は、紀元前の時代に黒海からシベリアにかけての広大な地域で活躍した騎馬民族である。しかし、写真を見ればわかるように、今回展示される遺跡や遺物は、非常にクオリティが高い。それも、物理的な損傷や化学的な劣化が感じられないものである。この理由は、遺物がシベリアの永久凍土で2000年間にわたって凍り付けの状態にあったので劣化が小さいからだという。素晴らしいのか、地球の気候システムが大きく変化していることなのか、そこはよく分からない。
この議論は、実はいま書いている論文と少し連関している。スキタイ文化の遺跡の保存は、自然界のそれぞれの場所が持つ性質と、その時系列上の変化を組み合わせて理解するものである。世界を場所と時間で分けたうえで、その関係性を読み解くものである。保菌者の問題は、この発想を用いる。もちろん中心となるのはヒト・動物・菌の間に成立するニッチな関係であるが、それがどのように他のトポスと関係するのか、そしてその関係性が時間によってどう変わるのか、そのようなトポスから構成される世界はどのようなものかを考察する背景を持っている。もう一つ、保菌者の問題で重要なことは、それが実際に患者が存在することも重要であるが、その研究のかなりの部分を実験室で、動物や実験器具や菌や体液などで作り上げる仮説上のエコロジカルな空間も重要である。とりあえずメモしておいた。