アジアの植民地医学のコンファレンス

「脱植民地後の植民地医学」のコンファレンスです。第9回のアジア医学史学会と東南アジア医学史学会の共同コンファレンスになります。パネルを応募しています。場所はインドネシアジャカルタ、時期は来年の6月末になります。

 

CALL FOR PAPERS for a joint meeting of

 The Asian Society of the History of Medicine (9th meeting)

and

HOMSEA (History of Medicine in Southeast Asia)

 to be held in Jakarta, Indonesia, June 27-30, 2018

 

Theme:

 

Colonial Medicine after Decolonisation:

Continuity, Transition, and Change

 

Guidelines for Submission: Submissions on all topics related to the history of medicine in Asia are welcome; submissions related to the conference theme are especially encouraged. Participants can submit full panels (2, 3, or 4 papers) as well as individual papers. Paper proposals (title, author, and an abstract in English of no more than 200 words) and a1-page curriculum vitae or panel proposals (a panel proposing of no more than 200 words with abstracts and 1-page CVs of all participants) should be sent by electronic mail to James Dunk (james.dunk@sydney.edu.au). The program committee reserves the right to suggest changes and revisions to abstracts and panel proposals.

 

Deadline for submission: 1 February 2018

Notification of acceptance will be given by 1 March 2018.

 

Program committee: Dr Harry Yi-Jui Wu (Hong Kong); Dr. Ning Jennifer Chang (Taipei); Prof Laurence Monnais (Montreal); A/Prof Hans Pols (Sydney); Dr. Yu-Chuan Wu (Taipei); Dr. Por Heong Hong (Kuala Lumpur); and members of the Local Arrangements Committee.

 

Unfortunately, the ASHM cannot offer funds to defray travel expenses due to budget constraints. There is a range of affordable accommodation available near the conference venue. Participants are encouraged to apply for support from their home departments or institutions.

 

The conference will be hosted by the Indonesian Academy of Sciences, which is located in the new buildings of the Indonesian National Library in the centre of Jakarta.

 

地獄絵ワンダーランド

www.nhk-p.co.jp

 

三井記念美術館, 龍谷大学龍谷ミュージアム, and Nhkプロモーション. 地獄絵ワンダーランド : 特別展. NHKプロモーション, 2017.

私は行くことができなかったが、実佳が行ってカタログを買ってきてくれた展示である。いま少し地獄について考えているときだから、とてもためになった。

次の話で、精神医療の症例誌から少し発展させて地獄の考えに触れるようにしようと思いついて、色々と地獄関係の本を読んでいる。中村元の解説や『往生要集』や『歎異抄』なども読んでみて、議論のある部分は形ができてきた。ただ、この書物で面白かったのは素朴な地獄絵という矢島新さんの議論であった。精神医療の症例誌を読むと、患者が普通に生活している空間で起きたことの話なので、強い緊張感や悲劇的な事態は、たしかに重要であるが、全体としてみると少数派であり、実際には頓珍漢で素朴な話が多いというのも事実である。それを素朴と表現するのがいいのかまだわからないけれども。この素朴な世界と主体に対する態度の話も織り込もう。

 

『人間の生命の四季について』

Horstmanshoff, H. F. J., and Trent Collection. The Four Seasons of Human Life : Four Anonymous Engravings from the Trent Collection. Nnbggn. Rotterdam
Durham N.C.: Erasmus Pub.;Trent Collection, Duke University, 2002.

17世紀に作製されたと考えられている4枚組の図版。図版のリプロダクション、詳細な説明、拡大したり捲り絵になっている部分をめくることができるCD-Rom がついている。図版は35cm × 45 cm で、それが同サイズで複製されているから、かなり大きな画集のサイズになる。めくり絵の部分は解剖図の原理で、体内にどのような臓器があるのかを見せることができる。季節の変化、植物の変化、天文学占星術、医学的な知識の流れに沿って、二人の男女が最初は若く、成熟して妊娠し、最後には死ぬという流れである。教育的な価値が非常に高いと思いながら、まだ授業で使ったことはない。来年か再来年の一般教養の授業で導入してみよう。

図は春のもの。二人の男女はまだ登場せず、年齢が異なる男の子を3人描いて、年齢差による成熟の違いを見せようとしている図版である。

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戦前日本の優生学と社会調査の論文

戦前日本の精神医学が優生学に対してとった態度は難しいですが、総じて熱烈な歓迎をしなかったというのは事実であったと思います。精神医学というより、生理学をはじめとする医学の他の診療科に属している個人、特に永井潜の活躍が目についています。

しかし、日本の精神医学が何もしなかったわけではありません。一つ、組織的に行われた大きな研究主題が社会調査でした。村や島などの地域を選び、その地域の精神疾患の患者を見つけてインタビューをして診断し、その親族や祖先の精神疾患の状況を調べるという調査です。東大教授の内村祐̪之、三宅鉱一、九大教授の下田光造らの指導的な精神病医、のちに東大教授となった秋元波留夫などが指導・参加している調査が行われました。戦後の関連調査も合計すると20件ほどが行われ、論文が執筆されています。

この調査の論文を読んでまとめた論文を刊行しました。以下のドイツ語の書物に英語で書いております。手に入りにくい書物かと思いますので、興味がある方は、ご連絡ください。PDFをお送りします。

Thomas Müller (Hg.) Zentrum und Peripherie in der Geschichte der Psychiatrie: Regionale, nationale und internationale Perspektiven (2017)  

 

マイモニデス『医学箴言』のアラビア語・英訳の刊行

press.uchicago.edu

 

中世イスラム圏で活躍した医師でありユダヤ教のラビであったモーゼス・マイモニデス(Moses Maimonides, 1135 or 1138 - 1204) が残した「医学箴言」。主としてガレノスから選ばれて、医学の主題ごとに配列されている。このテキストのアラビア語原典と英語の対訳がついに完了したとのこと。訳者はヘリット・ホス先生。ポスドクの頃は、アヴァンギャルドな黄色いスラックスに赤い靴を合わせたパンク風のファッションが似合う古典学者でした。マイモニデスの仕事の多くが翻訳刊行されていて、買いそろえてみたい誘惑にかられますね。少なくとも、医学箴言は買おうかしら。ガレノス自身の著作としては残っていないものからも箴言が取られているとのこと。

 

 

press.uchicago.edu

天然痘の歴史の国際プロジェクト

International Smallpox Project | H-Sci-Med-Tech | H-Net

 

フィラデルフィアの医学史研究の拠点であるミュター博物館が主催する、国際天然痘プロジェクトへの参加の呼びかけです。日本の天然痘と種痘の対策は、各地にさまざまなタイプの史料や標本があり、貴重な資源になっています。この研究をリードして、日本国内の資料を学際的に整備して、それを国際的に発信するHistory of Medicine のプロジェクトを始動できる若手から中堅の研究者が待たれています。

 

正倉院展の蜜蝋のこと

 
第69回の正倉院展。今回は地味な正倉院展で、日本史の教科書の図版に出てくるような、話題になるこの一点がなかったのかもしれない。来年はおそらく派手なアイテムがきらぼしのように並び、正倉院展としては第70回、平成も30年で最後の年になるのにふさわしいものになるのだろうか。
 
医学史家としてはとても楽しいアイテムがあった。蜜蝋、当時の云い方でいうと蝋蜜である(漢字の不正確さはゆるしてください)。これは、今年の目玉アイテムである羊木ろうけちの屏風、熊鷹ろうけちの屏風の関連で出た薬品である。はじめて出陳されたアイテムである。この屏風は、布の一部に蜜蝋を塗って、それを利用して模様を描く手法であるとのこと。その関係で塗る蜜蝋が展示されていた。手のひら前後の大きさで、厚さは1-2センチはある円盤状の蜜蝋が45点ほどだから、かなりの量である。トウヨウミツバチの巣をとかして圧搾してつくるとのこと。
 
大切なことは、この蜜蝋は薬物であったことである。中国の古代の医書にも現れるし、正倉院でも「種々薬帳」に記載されている。古代から初期近代までの医学において、薬と食品はわりと連続しているし、薬を工芸の目的に使うことには違和感がない。ただ、カタログで説明されていた話は工芸が中心で、薬としての利用についてよくわかる説明がされていなかった。また、20の円盤の中央に穴をあけてつないで一つの連にするという発想や、円盤と方形の蜜蝋があることなども、薬の移動や取引の仕方に何か洞察を与えると思うけれども、それについても説明されていなかった。このあたりの薬の取引と利用の話、医学史の研究者として私が苦手にしている領域なので、どなたか、説明できる方がいれば。
 
正倉院の時代はもちろん華やかな時代だが、国民は日本史のうえでも有数の新規の疾病に痛めつけられていた時代でもあった。東大寺の大仏も国分寺の建設も、「天平天然痘」と呼んでいる、日本で最初の確言できる天然痘から国家と人々を守ることが大きな影響を持っている。そこで出てきた薬と工芸の話は、新しい話がでてくる可能性が感じられた。
 
余分な話を。東大寺の荘園で「糞置村」の地図が展示されていた。これは越後の国に「糞置荘」として実在するとのこと。2006年の新聞記事に少し詳しい記事があった。