戦前日本の精神医学が優生学に対してとった態度は難しいですが、総じて熱烈な歓迎をしなかったというのは事実であったと思います。精神医学というより、生理学をはじめとする医学の他の診療科に属している個人、特に永井潜の活躍が目についています。
しかし、日本の精神医学が何もしなかったわけではありません。一つ、組織的に行われた大きな研究主題が社会調査でした。村や島などの地域を選び、その地域の精神疾患の患者を見つけてインタビューをして診断し、その親族や祖先の精神疾患の状況を調べるという調査です。東大教授の内村祐̪之、三宅鉱一、九大教授の下田光造らの指導的な精神病医、のちに東大教授となった秋元波留夫などが指導・参加している調査が行われました。戦後の関連調査も合計すると20件ほどが行われ、論文が執筆されています。
この調査の論文を読んでまとめた論文を刊行しました。以下のドイツ語の書物に英語で書いております。手に入りにくい書物かと思いますので、興味がある方は、ご連絡ください。PDFをお送りします。
Thomas Müller (Hg.) Zentrum und Peripherie in der Geschichte der Psychiatrie: Regionale, nationale und internationale Perspektiven (2017)