精神分裂病と薬物療法 秋元実践精神医学講義

秋元, 波留夫. 実践精神医学講義. 日本文化科学社, 2002.
 
東大精神科の教授であった秋元の書物。精神医学講義と銘打っているが、実際に講義として使われた書物かどうかは分からない。もともと秋元が教職を退いてから書籍化された書物でもあるし、また日本の精神医学史に関する個人的な覚書にあたる記述が非常に多い。秋元の史観に従うかどうかは別として、手元に持っていると便利な書物である。
 
授業で精神疾患、ことに統合失調症精神分裂病)に対する薬物療法の効果の話をするときに、秋元が引きやすいデータを出している。昭和13年(1938) から昭和58年(1983年)までの分裂病の長期予後の数字である。東大と金沢大学の調査報告のまとめであるとのこと。いつかもっとオリジナルに近い数字を見なければならないが、メッセージは鮮明である。
 
1938年には分裂病は74 % が未治で人格が荒廃した状態で生き続ける疾病であった。よく分からない理由で治ってしまうケースも17%あったが、医学ができることはごく少なかった。不完全寛解と軽快を足してもわずか9%であった。それが、1952年のクロルプロマジンの導入が象徴する治療法の進歩によって状況は激変した。これは、完全寛解が劇的に増加したという形ではなく、不完全寛解と軽症を足した数字を較べると分かり、医療によってほぼ治った状態、あるいは軽症な状態にすることができるようになったということである。1983年には、未治患者はわずか18%になり、66% の患者の症状をかなり軽症なものにすることができた。
 
皆さまもご承知のように、このように治療法が劇的に改善した時代に、日本の精神病床数が3万から30万と10倍に増えている。諸外国はもちろん精神病床は激減している。これはなぜか。この問いには絶対に答えること。
 
 
1938
1958
1965
1983
完全寛解
17%
29%
30%
26%
不完全寛解
5%
16%
31%
35%
軽快
4%
21%
17%
21%
未治
74%
35%
22%
18%