パリのサンタンヌ精神病院の患者のアート作品展

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h-madness の通知から、パリのサンタンヌ精神病院が患者の芸術・アート作品を収集してウェブ上に展示していること、恥ずかしいことですが、初めて知りました。ヴァレンティン・マニャンが精神科医であり、ラカン精神科医であったこと。患者としては、アントナン・アルトールイ・アルチュセールが著名な人物でした。

ギャラリーに1930年代の日本人の作品が掲げられており、氏名はわかっていないようです。あるいは匿名にしてあるのかしら。突き刺すような作品です。こちらからご覧ください。

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日本の廃墟病院

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日本の病院や精神病院は、数で言うと圧倒的な優位は私立だった。私立ゆえ、廃墟となった病院も数多く存在する。日本の経済や社会の激動に反応しているからである。精神病院でいうと、ヨーロッパやアメリカの廃墟精神病院も有名で、写真集も出ている。高級ホテルやマンションになった例もある。日本の精神病院も、何がどうなっているのか、そしてこれからどうなるのか、着目している人々もいる。

このサイトはフランス人の写真家が日本の三つの廃墟病院を写真に撮ったサイト。死亡した患者の身体部分などの標本もあったとのこと。昔の精神病院はどこもこうだったというのでなく、廃墟化した病院が割合でどのくらい存在するのか、どうして買われなかったのか、きちんとしたことを知っておきたい。

 

医学中央雑誌と 医中誌 Web の1963年までの遡行

お医者さまや医療関連者の皆様は 、おそらくほぼ全員『医学中央雑誌』を使ったことがあるだろうし、医中誌 Web はもっと使っているかもしれない。現在では、医中誌 Web には、平日で一日平均1万9,000件のアクセスがあるという日本の医学論文の巨大なデータベースである。

『医学中央雑誌』は、1983年から色々とあって、デジタル化に移行する。歴史学者にとっての問題は、その前の、1903年から1983年までの部分、現在彼らが OLD医中誌と読んでいる部分である。この部分は色々とお願いして、医中誌 Web でも検索できる方向に進んでいる。これは1983年から逆行していくという方法で入力がされている。現在では1963年まで入力されているから、さまざまな現象に関して、1963年からのデータベースを検索することができる。ぜひお使いください!

1903年から1963年を経て1989年までに関しては、国会図書館がデジタル画像で公開している。私はまだ紙雑誌を使いますが(笑)

後藤基行『日本の精神科入院の歴史構造』(東大出版会、2019) を頂きました!

学振 PD の後藤君から、『日本の精神科入院の歴史構造』(東大出版会、2019)を頂きました!日本の精神科入院の歴史構造についての記述です。図は21点、表は33点という豊かなデータに支えられたソリッドな展開。そして巻末ではこのように記述しています。

「戦後日本において展開してきた精神医療をめぐる精神病床供給・精神科入院の構造は、まさにこうした日本社会における倫理的規範や制度的義務をめぐる家族の内部の力学を無視しては説明できないように思われる」 

後藤君のお仕事は、国内と国際の双方で、日本に関する最も重要なご著作です。それを頂けたこと、光栄に存じます。皆様もぜひお読みになってください!

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後藤君のご著作です。

 

一日お休みを頂きました

土曜日は駒場で石原先生のご著作『精神医療を哲学する』の合評会。色々と多くのことを学ぶ会でした。その疲れがあって、今日は一日ゆっくり休ませていただきました。

東静岡の近くに「柚木の郷」という都市型の温泉があり、温泉や露天風呂やサウナが人工的に作られており、楽しかったです。よかったのは、温泉とライブラリーが組み合わされていたこと。ライブラリーの本がとてもよかったです。文庫本では三島由紀夫村上春樹などのベストセラー、美しい旅行や料理の本、日文研井上章一先生の京都案内、医学では阪大の仲野徹先生の病理学案内、おもしろいイラストとキャラクター付きの漢方学入門など、温泉のあとの時間を本を読んでゆったりしました。つい次の仕事の対象である漢方学を熱心に読みましたけれども(笑)

面白いことに、前日の土曜日の合評会のときに、大きな病院が患者に提供する文化が貧しいという話が提供されました。日本の医療は技術とテクノロジーが非常に進んでいますが、一方患者が楽しむことができる文化が病院ではまだまだであるという印象を持っています。最大の理由は、文学がわかるスタッフがいないということなのでしょうね。しかし、日本の温泉は、面白いライブラリーがどんどん形成されるという力を持っていて、なぜ病院にこのようなライブラリーのコーナーがないのか考えようとしましたが、そんな難しい話より、ぼうっとする時間が長かったです。温泉のお金で言うと、一日850円ですから、まあまあ払えるという印象を持っています。

明日から色々な仕事に帰りますね。今日は一日休みました。

ブルガリアのプロヴティフという文化都市について

エコノミストエスプレッソ。待ちかねていた土曜日の文化欄(笑)

今日のハイライトはプロヴティフ Plovtiv というブルガリア第二の都市。これが文化都市で、ローマ帝国の劇場、ビザンティン帝国のモザイク、オットマン帝国のモスクと、古代から中世の文化が蓄積されているとのこと。ことにローマ帝国の野外劇場は、そこでオペラが上演されるなど、現在でも用いられているとのこと。 Wikipedia で見ると素晴らしい文化都市です。 

en.wikipedia.org

ワクチン信頼度・疾病バックラッシュ・台湾のインフルエンザワクチンなどなど

Larson, Heidi J. et al. "Addressing the Vaccine Confidence Gap." The Lancet, vol. 378, no. 9790, 2011, pp. 526-535, doi:10.1016/S0140-6736(11)60678-8.

ワクチンのプラスとマイナスの対立は激しさを増している。ワクチンを接種して特定の疾病への免疫を作りだすことによる個人と社会の利益と、ワクチン接種の副作用や障碍が残ったりする場合の不利益は、激しい論争になっている。また、不利益があるからということで、ワクチンを信頼する度合いが社会で減少していく。そうすると、そのワクチンを打たない人々が多いので疾病がバックラッシュをかけてくる。ワクチン信頼度のゆらぎが複雑な現象であり、どの疾病に関して、世界各国でどのように変わったかという主題は、大きな研究の主題となっている。この論文は、科学的な議論や経済的な議論ではなく、心理的、社会文化的、そして政治的なファクターが重要であるというスタンスをとっている。

Huang, W T et al. "Mass Psychogenic Illness in Nationwide in-School Vaccination for Pandemic Influenza a(H1n1) 2009, Taiwan, November 2009–January 2010." vol. 15, no. 21, 2010, p. 19575, doi:doi:https://doi.org/10.2807/ese.15.21.19575-en.

台湾での心因性のワクチンに対するパニックについて。パンデミックのインフルエンザ(H1N1) に対して、2009年の11月16日に小中学校の生徒にワクチンを打ち始めた。11月23日から12月10日まで、ワクチンを打ったあとに心因性の疾病が現れた学校が10件ほどあり、300人ほどの生徒が疾病、病院に行った生徒は1人である。Massive Psychological Illness after Vaccination は MPIVと略す。

Jacobsen, Peter and Niels Erik Ebbehøj. "Outbreak of Mysterious Illness among Hospital Staff: Poisoning or Iatrogenic Reinforced Mass Psychogenic Illness?" Journal of Emergency Medicine, vol. 50, no. 2, 2016, pp. e47-e52, doi:10.1016/j.jemermed.2015.10.011.

これはデンマークの病院で仕事をしている者たちに MPI が起きたのであろうという話。病院が Mass Psychogenic Illness なのか。病院は、そこで複数の殺人が行われる非常におかしなことになっている。MPIも起きるのか。

Taddio, Anna et al. "Survey of the Prevalence of Immunization Non-Compliance Due to Needle Fears in Children and Adults." Vaccine, vol. 30, no. 32, 2012, pp. 4807-4812, doi:https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2012.05.011.

注射針の痛みへの恐怖のために指示に従わない子供と成人がいること。

McNeil, Michael M. et al. "A Cluster of Nonspecific Adverse Events in a Military Reserve Unit Following Pandemic Influenza a (H1n1) 2009 Vaccination—Possible Stimulated Reporting?" Vaccine, vol. 30, no. 14, 2012, pp. 2421-2426, doi:https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2012.01.072.

これは面白い。アメリカの予備軍でのエピソード。パンデミック・インフルエンザのワクチンを打ち、そのせいでギラン・バレの症状が出た予備兵が病院に運ばれる。その翌日、同じ部隊の13人の予備兵が同じような症状があるといった。

Kharabsheh, S. et al. "Mass Psychogenic Illness Following Tetanus-Diphtheria Toxoid Vaccination in Jordan." Bulletin of the World Health Organization, vol. 79, no. 8, 2001, pp. 764-770, PubMed, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11545334
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/PMC2566491/.

これはヨルダンの政治・外交をヒステリーの背景に持っている。1998年にジフテリア接種をうけて200人ほどが集団で不安を起こした。西海岸では1983年にはガス中毒ではないかという不安が、イランでは1992年に26人の女性がジフテリアのあとに不安が起きている。