1980年代からの中国原産のウサギ熱のパンデミー

www.newyorker.com

 

New Yorker で非常に楽しく深さを持っている記事。タイトルはRabbit Fever (ウサギ熱)著者は Susan Orlean で、数年前に The Library Book という図書館の歴史を描くとても面白い本を出し、翻訳もされたが、私はまだ読んでいない。
 
彼女が、Rabbit Fever を描くのに、19世紀からのウサギの間のパンデミックのこと、『ピ-ターラビット』の原型のウサギのこと、有名なミクソウィルスの逸話、中国が原産で1984年から大流行したパンデミーのことなど、非常に面白い。
 
 

Covid-19の中の国際飛行

www.lrb.co.uk

 

もう一つLRBから。イランのテヘランに住む女性の記事。トロントで勉強する従兄弟の学生が飛行機の事故で死亡し、テヘランからトロントに行き、家族のお見舞いや後の処理などをした。その間にパンデミーのために、カナダはイランとの通行をサスペンドし、街全体にロックダウンをかける。彼女はトロントで孤独な一か月を過ごし、5月になってようやくヨーロッパなどを回ってテヘランに帰る。空港やさまざまな場所で40時間かかったという。その間の深い孤独と無秩序と旅人への公衆衛生。とても面白いです。

中国伝統医学 (TCM) によるcovid-19 に対する有効性のキャンペーン

www.bbc.com

 

BBCから。covid-19 の発生の中核の問題は、中国の市場で取引される野生動物をどのように管理するかということである。SARS においても、covid-19 の発生地である武漢市の海鮮市場においても、第二派にあたる北京の海鮮市場においても、そこで取引される野生動物が重要なポイントだった。その野生動物は何かということについては、コウモリが一つの源泉だと考えられている。そして、コウモリたちが吸血したジャコウネコなどはよく野生動物として食べられる。コロナウィルスがヒトに感染するためには、このような野生動物と市場というメカニズムがある。

一つの大きな問題は、ジャコウネコが食用であると同時に、中国伝統医学 Traditional Chinese Medicine における薬でもあることだ。だから、ジャコウネコというと、食用か薬用か曖昧である。あるいはもともと渾然一体であるのかもしれない。この部分は調べてみたいと思っている。

そんなことを考えていたら、中国からはTCMがcovid-19にとって有効であるという一大キャンペーン。これも、薬品が動物系なのか植物系なのか、きっと論争があるだろう。これも少し押さえておく。

 

コリアンダーの枝

コリアンダーチャンツァイと呼ばれているハーブがあって、私はとても好きである。葉をたくさん使ったあと、その種を取って蒔いてみようかという話が出て、初めてやってみた。つまり放置しておいたということなんですが(笑)写真はその種を取る途中に、枝の状態にしたコリアンダーのもの。まるで人工物のような印象で、意外にいい。でも、取られる種が小さいような気がする。

 

f:id:akihitosuzuki:20200622114210j:plain

コリアンダーの枝です

 

書評 石原あえか『日本のムラージュ 近代医学と模型技術:皮膚病・キノコ・寄生虫』が公開されました

 

repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp

 

しばらく前に執筆した石原あえかさんの優れた書物である『日本のムラージュ 近代医学と模型技術:皮膚病・キノコ・寄生虫』が公開されました。PDFになっておりますので、ご覧ください。

 

書評は学者にとってとても重要な仕事だと考えています。学術雑誌のエッセイ・レヴューや、一般知識人向けのLRBなどを読んでいるからだと思います。そこで取り上げられる優れた書物である場合には、本気の論戦を設定して議論をすることが多いです。私にとってそうでない場合には、色々な意味で力を抜いた書評を書きます。石原先生のご本は非常に優れていました。それがあって、本気で批判した書評です。ただ、あの手法は良くなかったと反省しています。難しいですね。

 

最近、Lisa Jardine というしばらく前に亡くなった英文学者の論評をBBCで聴いていて、こうするんだなと感心・感動することが多いです。6月27日に大きなセミナーの仕事をするのですが、少しだけそれを入れてみようかと思っています。

モーリタニアの図書館の危機

www.bbc.com

 

モーリタニアという共和国がアフリカの西側の内陸部にある。かつては東側で繁栄したイスラム文化を西側につなぐ交通路の重要なポイントであった。そこには文化が発展し図書館も作られる。内容としては、哲学、宗教、科学などに関する写本のコレクション。実際には、先進的な天文学の写本を紹介してくださった。しかし、サハラ砂漠の拡大の中で危機に直面しているとのこと。

もちろん(おそらく)アラビア語で書かれていて、その言語や写本を私が読めるようにはならない。けれども、この膨大な写本を読んで、ガレノスやヒポクラテスと、アラブ・イスラーム世界の共通点と違いを説明していただければ、非常に嬉しい。10万円頂いたけれども、それには感謝しながら、この財団があれば寄付しよう。

 

ちなみに、モーリタニアモーリシャス島は、たしかに同じアフリカですが、全く違う地域というか、ほとんど正反対ですので、きちんと区別すること。一人で大混乱していました(涙)

フィルヒョーと線虫と豚肉のソーセージ

フィルヒョー (Rudolf Virchow, 1821-1902)という19世紀ドイツのおそらく最も偉大な医師がいる (詳細は省きます) シュリーマンの『古代への情熱』で非常に格好いい役割を果たしている。そこでは私が少年時代に愛読した名場面があって、そこの登場人物がフィルヒョーであることは大学生の時に初めて気がついた。
 
彼は政治的に自由派の政党の設立者の一人であり、非常に活発であったので、ビスマルクに決闘を申し込まれたという、これも非常に有名なエピソードがある。もちろん、決闘は野蛮であるからとフィルヒョーが断ったということが史実である。しかし、史実をはるかに超えた面白い逸話があり、これが数多くの医師や実験室の科学者たちが非常に気に入ったエピソードである。それを授業用にメモしておく。
 
エピソードはもちろん実験室で起きる。年は1865年である。フィルヒョーが実験をしているときに、助手が入ってきて、ビスマルクが決闘を申し込んできたと伝える。それを聞いたフィルヒョーが、彼が武器を提唱することができるなら、これにしようといって、2本のソーセージを出す。一つは普通のソーセージである。もう一つにはせん毛虫がたくさん入っている。このせん毛虫は細くて長い線虫で、それがらせん状になっている。両者の見かけはほぼまったく変わらない。それのどちらかを先にビスマルクが食べることにしよう!と言って、その場が大笑いになったエピソードである。もちろんこれは科学者と実験室が持つ力を描いている。実験室で作られた普通のソーセージとせん毛虫入りのソーセージが決闘の二つの武器であり、偉大な政治家であっても科学者でないと二つを区別できないという部分がある。
 
それに、せん毛虫入りのソーセージは当時のドイツやヨーロッパで大きな感染症のもとであった。野生動物の肉からも感染を受けるが、やはりブタから作るソーセージに含まれる線虫が人々の体に寄生すること、そのため人々が衰弱して死んでしまうことが大きな問題になっていた。ことに1835年のロンドンのバーソロミュー病院で病理解剖されて発見された線虫、1860年ドレスデンの病院で病理解剖された女中が持っていた数多くの線虫、そして同一の家族も持っていた数多くの線虫が重要な発見となった。ちなみに、1870年代には各国で次々と豚肉を検査することが法律化される。
 
フィルヒョーの身振りは、実験医学と社会をつなぐものであった。二つのソーセージが決闘道具であり、それをきちんとすることが社会の健康に貢献しているというメッセージである。この逸話が大人気であったことは重要だし、偽の逸話であったことも重要である。