Entries from 2015-02-01 to 1 month

『風立ちぬ』と『魔の山』とレントゲン線

結核のサナトリウムを舞台にした文学は、日本でも世界でも数多く書かれていて、いくつかの有名なものは読んだ。日本と外国でそれぞれ最も有名な結核作品である、堀辰雄『風立ちぬ』とトーマス・マン『魔の山』は、どちらもレントゲン写真が重要な小道具に使…

谷崎潤一郎の家族の病気のエピソード(1917年)

谷崎潤一郎の全集を読んでいたら、ある作品に家族の病気のことが細かく書いてあるのを発見したのでメモ。作品は「晩春日記」、1917年7月に『黒潮』に掲載された。中央公論社の全集の第4巻。4月30日から5月4日までの身辺の出来事を日記風に書いた作品。文士た…

アメリカ軍が視た戦争直後の日本の精神医療

Cotton, Henry A. and Franklin G. Ebaugh “Japanese Neuropsychiatry”, American Journal of Psychiatry, 103(1946), 342-348. 日本の精神医療の歴史的な形成が持つ一つの特徴に、自らを批判的に見る機会が少なかったことが挙げられる。たしかに、呉秀三を…

英語の「らい病」の二つの意味の併存

ハンセン病・ハンセン病患者を意味する英語の leper という単語には、医学的な意味と社会的な意味が併存している。I am a leperというと、「私は医学的にハンセン病と診断された」という意味にもなるし、「私は嫌われ者、厄介者、鼻つまみ者である」という社…

オクスフォード学術英語学習辞典

オクスフォードの新しい辞書が到着して、眺めて使い方を考えたこと。 Oxford Learner's Dictionary of Academic English. 簡単に言うと、学術論文や学術書など、学術系の文章を英語で書くための辞書である。世界中の大学教師、研究者、 院生たちがターゲット…

Workshop on the History of Medicine, Society and the Body 11 March (Keio University, Hiyoshi Campus)

We have made a provisional programme of the workshop on the history of medicine, society, and the body, which will be held at Keio University on Hiyoshi Campus on Wednesday 11 March. Seven papers (30 mins presentation and 30 mings dicusssi…

ソンタグとがんのメタファーについて

Clow, Barbara, “Who’s Afraid of Susan Sontag? Or, the Myths and Metaphors of Cancer Reconsidered”, Social History of Medicine, vol.14, no.2 (2001), 293-312. スーザン・ソンタグの『隠喩としての病』(原著1978)は、20世紀末に起きた病気と医療に…

動物の実験的神経症―1950年近辺の日本

将来の研究主題のひとつで、動物の精神疾患について歴史的な考察をしてみたいと思いついて、実験動物を「精神疾患」にするという主題の論文を読んでみた。この場合の疾患は「神経症」である。 精神疾患を研究する手法の一つに、動物に実験的な操作を行って、…

ワークショップ:症例誌を読む

3月12日・13日の両日にわたって、慶應大学の日吉キャンパスで、「ワークショップ:症例誌を読む」を開催します。 医療の診療の際に記入される症例誌 (case record) は、近年に欧米で発展した医学史が新しい問いや視点を導入する際のコアな史料でした。このタ…

Workshop of the History of Medicine, Society and the Body

On 11 March, we are going to have a workshop of the history of medicine, society and the body at Keio University, Hiyoshi Campus in Yokohama. Graduate students and post-docs, who have attended my seminar at Keio in 2014-15, will present th…

京劇のセリフを歌う精神病患者―1930年代

Shapiro, Hugh, “Operatic Escapes: Performing Madness in Neuropsychiatric Beijing”, in Jing Tsu and Benjamin A. Elman, Science and Technology in Modern China, 1880s-1940s (Leiden and Boston: Brill, 2014), 397-325. 1930年代の北京のPeking Uni…

トランキライザー(緩和精神安定剤)はなぜ批判・拒絶されたか

Speaker, Susan L., “From ‘Happiness Pills’ to ‘National Nightmare’: Changing Cultural Assessment of Minor Tranquilizers in America, 1955-1980”, Journal of the History of Medicine and Allied Science, vol.52, n o.3 (1997), 338-376. 1950年代…

男性の性欲が少ないことにはどんなメリットがあるのか

ピエール・ダルモン『性的不能裁判―男の性の知られざるれる歴史ドラマ』辻由美訳(東京:新評論、1990) 著者はフランスの医学史研究者で、癌の歴史や生来犯罪者伝説などの興味深い主題について多くの本を書いて翻訳されている。分析の視点などについては共…

反ワクチン運動と1970年代から80年代のアメリカの女性運動

Conis, Elena, A Mother's Responsibility: Women, Medicine, and the Rise of Contemporary Vaccine Skepticism in the United States, Bulletin of the History of Medicine87.3 (Fall 2013): 407-35. 子供にワクチンを接種するか否かという問いは、日本も…

フィルヒョーの発疹チフス流行の報告書(1848)が英訳されていた!

医学史を大学院で教える時に読ませる教材を選ぶときに、フーコーなどの基本的な研究文献、最新の視点を盛り込んだ研究文献、それから重要な古典であるテキストからバランスよく選ぶことに注意している。前の二つを手に入れて配るのは簡単だが、最後の重要な…

Prison Psychosis and Japanese War Criminals after WWII

After World War II, about eight thousand war criminals from the Japanese Empire were brought to trials. Some became mentally unstable or sick during their detention at prisons and serious cases were sent to Matsuzawa Hospital, which was th…

帰ってきた「シェルショック」

ナショジオ日本版の2015年2月号で「爆風の衝撃に苦しむ帰還兵」という記事を読む。医学史の研究者が読むと、歴史的に非常に重要な意味を持っている記事であり、おそらく意図されたものだと思う。内容としては、21世紀に入って、主として中東地域の戦争におい…