野生児の歴史を読む。Newton, Michael, Savage Girls and Wild Boys: a History of Wild Boys (London: Faber and Faber, 2002).
学術書というより教養書だけれども水準は高い。アヴェロンの野生児、カスパー・ハウザー、アマラとカマラのような野生児・監禁児が発見されて有名になった経緯を、それぞれについて滑らかな筆致で語り、彼らが研究され表象されたありさまを思想史・科学史の手法で分析する。ヨーロッパが自己と他者の間に引いた境界線、自然と文明の本質的な違いは何であると考え、「人間」をどう位置づけようとしたかという問題を、野生児の系列を辿ることで明らかにしようとしている。
丸々一章が割かれている18世紀の「シャンパーニュの野生の少女」メミー・ル・ブランの事例というのは、恥ずかしい話だが私はこの書物を読むまで聞いたこともなかった。おそらく北アメリカから奴隷貿易か何かに紛れてヨーロッパにやってきて、何かの事情で野生生活をすることになった少女で、モンボッド卿などが彼女について書いている。イヌイットではないかと思いこんでいたものもいたという。
なお、野生児 (feral children) は今でもよく見つかっていて、歴史から現在のニュース、心理学研究にいたるまで、充実した英語のサイトがある。動物に育てられたということで検索すると日本からはヒットしたのは「もののけ姫」だけだった(笑)。昨日も森羅さんがコメントしてくださっていたが、ハウザーのように私宅に監禁された子供(や大人)は現在にいたるまでたくさんいるはずなのに、日本からのエントリーはない。