明治の日本家族の病理性

門脇真枝「狐憑証研究の一節」『国家医学会雑誌』No.188(1902), 620-627. のなかに、日本家族の病理性について当時の医者が明確に意識していることを示す箇所があった。

110件ほどの狐憑きの症例を研究した調査の統計。男女差もあまり変わらないし、年齢構成は20-40歳になだらかな山があって特徴がないものである。門脇の目を引いたのは婚姻の問題である。この論文で門脇は、ハーゲンなる医者の精神病統計を引用して、ドイツの未婚者は生活が無規律になるなどの理由で精神病が多く、既婚者は「規律正しき性欲的交際等の佳良なる衛生的関係」が発病を予防するという説を紹介する。門脇はしかし、日本における結婚はこれと正反対のはたらきをして、むしろ精神病の発病を促すという。夫婦の気質の隔離(という表現を使っている)だとか、他の親族との関係が円満でないだとか、家計が心身の過労を生むだとか、結婚が原因になった精神病が多いといって、門脇は、男性では39/60 、女性では41/53が既婚者だという数字を挙げている。 

この何気ないコメントは、明治日本の精神科医が、おそらく臨床の経験・個人的な経験・あるいは社会常識から、欧米の結婚と日本の結婚は、精神医学的に意味が異なることを当たり前のように認識していたことを示していると思う。