『陳列棚のフリークス』

必要があって、歴史上の畸形をめぐる医学の逸話を集めた書物を読む。文献は、ヤン・ホデンソン『陳列棚のフリークス』松田和也訳(東京:青土社、1998)

自然発火する人体、胃の中で増殖する蛙と蛇、身体の中で発生して肉の中で増えるシラミ、巨人、小人、生存中の埋葬、母親が妊娠中に見て衝撃を受けたことがらが生まれた子供の身体に刻印される「胎内感応」、尾のある人、ハンター博物館の巨人、子供、シャム双生児、「サル女」こと19世紀に各地で見世物にされたジュリア・パストラーナなどの事例がたくさん集められ、解説されている。英独仏アメリカを広く見ているほか、スカンジナヴィアからも資料を集めている。これらの中には、現代の医学に照らして実在するものも、ありえないものもある。巨人や小人は成長ホルモンの異常の産物だし、「サル女」は、終毛性多毛症・歯肉増殖症、顔面の変形という遺伝性の障害が組み合わさったものと考えられるそうである。

歴史的な概念装置はとてもナイーヴで、科学者も含めて人体における驚異を信じやすい時代に生じた畸形やありえない話を、悪辣な興業人が金もうけのために利用し、障害者を非人道的に扱い、真の科学がそれを打ち砕くという史観が繰り返されるのは辟易する。しかし、リサーチは広いし、一つ一つの事例は丁寧に調べられ、物語はうまい。むしろ、畸形というか、障害を公的な領域に引きずりだしてきたのは、科学であると同時に、時として残酷な好奇心に満ちた、公衆であったことが深く感じられる、良い本だったと思う。