アッシャー館の崩壊


E.A. ポー「アッシャー館の崩壊」『ポー名作集』

丸谷才一の翻訳で、アーサー・ラッカムとハリー・クラークの挿絵が入っているけれども、これらのことに過度な期待をしないほうがいいと思う。『ボートの三人男』の丸谷の訳は素晴らしい出来栄えだけれども、この訳は、あまりよくない。文体が向いていないのかな。挿絵のほうも、岩波文庫だから仕方がないけれども、サイズはごく小さいし、画質もあまりよくないように思う。あとは、この取りあわせについては、すでに多くのポーのファンから、批判があると思う。

「アッシャー館の崩壊」には、「ミアズマ」についての毒々しくてわかりやすい記述がある。

館と周囲の地所全体が、それらおよびそれらに近接したものに独特の大気―天空の大気とは全く異なる、朽ちた樹木や灰色の壁や静寂きわまる湖の臭いを帯びた大気―仄かにしか認めることのできぬ、鉛色に淀んだ、悪疫をもたらす恐れのある謎めいた瘴気によって覆われているのではないかという想念に私は耽り、また、それを信じかけていたのである。」288

「先祖代々の館の形と実体の特異性が、久しきにわたって放置されていたため彼の精神に及ぼした魔力であり、灰色の壁と尖楼、それらが影を落とす幽暗な沼の容姿(フィジーク)が、ついに彼の気質(モラ-ル)にもたらした影響であった。」294

画像は、ハリー・クラークがポーの「落とし穴と振り子」につけた挿絵。この文庫には入っていない。