シュニッツラー「夢小説」
アルトゥーア・シュニッツラー『夢小説 闇への逃走 他一篇』池内紀, 武村知子訳(東京:
岩波書店, 1990)
「闇への逃走」と同じ岩波文庫に収録された中編小説。第一稿は1907年に完成し、発表されたのは1925年である。18年間にわたって「寝かせ」と書き直しがあったのは、シュニッツラーにありがちなことだという。主人公はウィーンに住む医者のフリドリンとその妻アルベルティーネで、夫婦がお互いに語る記憶と見た夢の話が、フリドリン自身が経験する事件の記述の中に織り込まれる。フリドリンの事件も二人の記憶も、まるで夢のような幻想性と奇妙さを持っているので、全体がまるで一つの夢のようである。仮面舞踏会に秘密の官能の宴。フリドリンに唐突に恋をする若い娘と、性病を病む17歳の娼婦。秘密パーティで出会った謎の美女と、彼女を探して死体を確かめる病理学研究室。このウィーンの冒険が、フリドリンとアルベルティーネの記憶と夢物語と交差する物語である。
空虚と飽和と官能がないまぜになった感じ。夜の街の不思議な意味があるような出会い。そこから引き込まれるように入る小さな世界。形を取りかけては崩れて霧散する欲望。そういった一人の時の生活が影のようにつきまとう恋人との会話。心の奥でいくつかの幻影が溶け合っていく。私の青春は、まさしくこのような影と淡い光が溶けあって流れていくような生活だった。