精神医学と研究用映画

Anthony R. Michaelis, Research films in biology, anthropology, psychology, and medicine (New York: Academic Press, 1955)

科学研究のための映画撮影は20世紀に入ると一般的になった。本書は生物学、人類学、心理学、精神医学、医学における映画の利用について、重要な研究に触れながら要点をまとめたものである。巻末には約1400点の英語を中心にドイツ語・フランス語の文献がリストされており、1955年の段階での関連文献を総覧できる。

 

精神医学において映画はさまざまな利用がされているので、それを列挙する。ある患者の長期的な観察、運動障害を高速度撮影して分析する手法、他の医者にかかった場合や「法的な事例」に関して証拠を提供すること。この法的な事例というのは刑事犯の場合だろうか。講義のために症状を写した映画を提供できる、また、病理解剖が利用できる場合には症状と解剖をセットで提供できる。統合失調症をはじめとする多くの精神疾患についてその症状が撮影されている。インスリン療法やロボトミーの様子も撮影されている。戦争神経症の映像は大量に残っている。多重人格の映像もあり、自動書記が撮影されている。多くの症状が記録されているにもかかわらず、それを組織的に分析した研究は少ないのが残念である。療法の記録も多くある。特に興味深いのは、心理療法のために作られた映画である。精神病院にいる患者に、そのために特別に作られた心理療法用の映画を見せるということが行われていた。こういった映画は、アメリカの精神医学の潮流と一致した精神分析的な内容を持ち、Overdependency, Feeling of rejection, Feeling of hostility などの成長の過程での心理的な要因を扱っており、ちょっと調べたら、普通の大学図書館・資料館なども所蔵している映画らしい。

 

 

日本の精神医学と研究用映像については、いくつか作られたことは確かだが、私はまだ歴史的な史料を発見して利用したことはない。心理療法の映画というのはとても面白く、日本でもこのような映画が作られたりしたのだろうか。

 

第一次大戦時のノンネが戦争神経症の兵士に催眠療法を行う映像をみることができるサイト。

http://www.dredmundforster.info/treatment-of-hysteria-in-wwi