人種を超えて・実業家の相貌学

シュネーの『「満州国」見聞記』に人種を超えた階級の相貌論をどんぴしゃで書いている部分があったのでメモ。20世紀には帝国主義と人種主義の時代であるから、人種によって相貌が違うという議論が多かったし、人種主義の科学者は、白人を頂点にして、黄色人種―黒人―類人猿と指標が連続的に降下していくと論じていた時期であった。それと並行して、階級や職業によって相貌が異なり、同じ身分・階級・職業であれば人種を超えて相貌が似ているという意識も共有されていた。リットン調査団に同行したハインリッヒ・シュネーが、東京の商工会議所を訪れて、商工業者の連合団体、工業クラブで日本の実業家や銀行家と会ったときに、日本の実業界のリーダーたちの相貌をこのように書いている。<人種の相違こそあれ、ヨーロッパの企業家や銀行家とあまりに類似している。ドイツ産業界の首脳にみられる精力的な広い顎、いかにも鍛え上げたという面構え。浅黒い色つやだが、これを度外視すると、ベルリンやロンドンの実業家とかわりない> (38) 

 ここにあるのは人種主義を超えたところにある、インターナショナルな相貌学である。人種がなんであれ、ビジネスマンはビジネスマンの顔をしているという発想である。この引用は憶えておいたほうがいい。

 

 

ハインリッヒ・シュネー『「満州国」見聞記 : リットン調査団同行記』金森誠也訳(東京:講談社, 2002