医療と人種差別

未読山の中から、20世紀後半のアメリカ南部における病院の人種差別撤廃の構造を検討した論文を読む。文献は、Pohl, Lynn Marie, “Long Waits, Small Spaces, and Compassionate Care: Memories of Race and Medicine in a Mid-Twentieth-Century Century Southern Community”, Bulletin of the History of Medicine, 74(2000), 107-137.

医療、特に西欧における病院は、人種差別の構造を検討するのに非常に興味深い事例を与えてくれる。医療にはヒューマニズムがあり、病院は慈善の善行の場であり、科学的なイノヴェーションの場であり、専門主義の場であったが、人種、民族、ジェンダー、階級の差別は、病院において生成され強化される傾向があった。人間愛の場は同時に差別の形成の場でもあった。日本では、ハンセン病の療養院などにも、この矛盾するような要素が共存する傾向が表れているのかもしれない。光と影が強いコントラストで共存すると言ってもいいかもしれない。光が存在するためには影が、影が存在するためには光が必要なのだから。こういう比喩的な言い方ではなくて、もう少し意味がある形で分節化するとどうなるのか、今のところは見当がつかないけれども。

この論文は、この問題をオラル・ヒストリーによってリサーチしたものである。そこでは、語り手は、ある特定の自己像と現在の関心に従って、過去を構成するから、語りは事実というより、それが語り手にとって持っている意味を教えてくれるということ。