藩による医療の把握

必要があって、後期近世の藩による医療を分析した論文を読む。文献は、海原亮「近世後期藩領における<医療>の展開―越前国府中を例として―」『史学雑誌』112(2003), 1811-1837.

近世の医療は村や共同体などの地域をベースにして作られたものである。それぞれの地域には医療について判断し主導する村落指導者・知識人が存在したし、病への対処は地域的な枠組みを単位にして行われた。一方で、幕府や藩が何をしたのかということはまだわかっていない。この論文は越前の小さな藩を題材にして、藩が医療にはたした役割を分析したものである。

藩は、まず、主君や家臣団の病気を治す藩医身分を組織した。この組織からなる医学館を媒介して、町医や逗留した医師などを把握した。しかし、医学は高度な専門性を有していたがゆえに、藩は、医療の内容それ自体を技量の面や内在的な視点から査定し制度化する手段を持たなかった。それゆえ、彼らの出自や師弟関係などの個人的な要素に着目することで間接的に統制した。

近世社会における藩の医療統制とは、医師そのものを把握することである。藩はまず藩医を家臣として掌握し、彼らを通じて町医などを管理できた。これは、医師がおこなう医療を身分的に掌握することであった。