中世イスラム世界のハンセン病

Dols, Michael W., “The Leper in Medieval Islamic Society”, Speculum, vol.58, no.4 (1983), 891-916.

 

中世イスラム世界のハンセン病について、この論文は読んでおかなければならないから読み始めたのだが、やはりこの著者だけあってとても面白かった。患者を隔離したレプロサリウムが比較的数多く存在したこと、患者が温泉や池にはいる慣行があり、患者が集まる場所として著名な温泉があったことなどなど、興味深いことが多く記されている。いちばん読みごたえがあったのは論文の最後の部分のヨーロッパとイスラムの比較で、ヨーロッパではキリスト教の考え方が優勢になったのとは対照的に、イスラム教はそもそもキリスト教(特にユダヤ教)ほどハンセン病に厳しくないうえに、ガレニズムの医学が大きな影響力をもっていたので、イスラム世界では中世のヨーロッパほど厳しい隔離は存在しなかったこと、それにもかかわらず、やはりイスラム世界においても隔離はある程度存在したことなどが記されている。日本とヨーロッパを軸とした精神医療や精神病院収容の深い国際比較は、いつかは必ずやらなければならない仕事であるが、この学者の記述はたいへん参考になった。