身体診察 (physical examination) の重要性について

医学書院/週刊医学界新聞(第3231号 2017年07月10日)

 

週刊医学界新聞で医師3人による「身体診察」の重要性について。身体診察というのは英語でいうと physical examination で、医師の5感、特に視覚、聴覚、嗅覚、触覚を用いて患者の体に触れて、疾病を診断する方法である。これは、通常の人間同士の関係であれば許されない身体接触が、医師―患者関係においてのみ許される特権領域である。「はじめまして。服を脱いでブラを外してください。乳房にしこりがあるか触って調べます」といって犯罪にならないのは、医師―患者関係のみである。

それに対して、患者の身体そのものとの接触がない方法があり、これは「検査」と呼ばれている。採血したものを調べるとか、画像を調べるのはすべて検査である。身体診察は、色々あったが、基本は古代から現代まで継続しているジャンルであり、検査は、19世紀から始まり、現代の高度な医療を支えている技法である。

この対談のポイントは、身体診察を現代の医療のはめこんで、おそらく二つの方向で議論をしている。一つは、高度なテクノロジーを用いた検査ができない状況で身体診察が重要であること。たとえば夜間の診療やへき地の診療である。もう一つは、患者との信頼関係を取り戻すことである。個々の患者の話を聞き、患者の身体に触れ、打診し、音を聞く。それを通じて患者による医師の評価があがり、検査至上主義に陥りがちな現代医療に対するいい対立項になるという。

いずれも面白い論点で、特に後者の医師―患者関係の復興という考えは議論の焦点になるだろう。

そしてもう一つ。この場に医学史の研究者がいないことも残念である。イギリスならば、医師二人に医学史家一人、あるいは医師一人に医学史家二人という構成になっただろう。