BMJ (British Medical Journal) において、医療人文学分野に特化した Medical Humanities という雑誌がある。医学・医療と人文社会科学をどう融合させるかと考えているが、この雑誌も急速に論文の質が向上している。一つは文学系の目でフランケンシュタインと生命と機械を取り上げたもの。もう一つは哲学の目でアメリカの公衆衛生の発展を分析したもの。
Koepke, Yvette. "Lessons from Frankenstein: Narrative Myth as Ethical Model." Medical Humanities, 2018, http://mh.bmj.com/content/early/2018/07/09/medhum-2017-011376.abstract.
今年はメアリー・シェリーが『フランケンシュタイン』を書いてから200年祭にあたる。動物や人間の身体の部分を集めて、人工的な生命を与えたクリーチャー the creature のドラマは、そこからどのようなメッセージを読む作品なのかをめぐってさまざまな議論があるが、人文系から見たときには、技術と生命の結合を批判的な意見が多い。
この論文は、もう少し複雑な構造を『フランケンシュタイン』に与えている。作品が持つ構造としては、そこには多様性が埋め込まれている。一つは冒頭にギリシアの宗教とキリスト教の二つが組み合わされていて、前者はプロメテウス、後者はミルトン経由のキリスト教の悪魔やアダムなどである。フランケンシュタインは villain, victim, hero のいずれでもないという位置づけがされており、クリーチャーが根本は人間であると設定されている。
Goldstein, Evan V. "Sophistry in American Medicine? Platonic Reflections on Expertise, Influence and the Public’s Health in the Democratic Context." Medical Humanities, 2018, http://mh.bmj.com/content/early/2018/07/14/medhum-2018-011469.abstract.
アメリカの公衆衛生の現実には、医療へのアクセスの差、所得の差、人種の差などによる格差が大きくなっている。これを乗り越えるためには、プラトンの考え方を用いればよい。プラトンは専門的技能と意思決定を論じており、それを医療へのアクセス、情報の利用、資源の配布などの公衆衛生の機能と重ねて論じるべきである。