薬草まむし酒と木賃宿小説と「仙方」

木村, 幹. 草根木皮 . 第1輯. 日本薬草学研究所事業部, 1931.
木村, 幹. 駒鳥の死. 三陽堂出版部, 1919.
 
医学史の検索をして、慶應の図書館のリストを眺めていて、なんとなく面白そうだから取り寄せたのが1931年に刊行された『草根木皮』という小冊子。著名な薬学者たちも書いているが、基本は「仙方 万里春」という名称の薬草まむし酒を広告するものである。日本薬草学研究所なる研究所の木村幹という人物が売り出している。木村という人物は誰なのかよくわかっていない。本人も書いているところを見ると、有名人だったらしい。木村幹という名前の人物は、朝鮮を研究しているとても有名な政治学者がいることもやや関連して(笑)、ちょっと探しにくい。大正の時期にフランス文学やイギリス文学の作品を訳した木村幹もいるし、『駒鳥の死』という短編小説集を出した木村幹もいるし、薬草まむし草に政治的な意味あいを込めて出した木村幹もいる。うううむ。
 
たまたま『駒鳥の死』を自宅から読むことができたので軽い気持ちで読んでみたら、面白い点があったのでメモ。巻末の「木賃宿の人々」に当たり前のような形で精神疾患者が出てきた。主要な登場人物はたくさんいて、おそらく作家の木村としては現実にある程度反映できたのかもしれない。元藩士の「ぼうだら」や40代の男で目の障碍者の「ぬし」などの話で始まる。色々な人物がいるが、木賃宿で暮らしながら女遊びが激しい人物である「銀さがしの笹子」という男がいて、彼がちょっと手を出した女が、父親と一緒に住んでいるが、父親は気狂いだから人に会うのを嫌がって自宅の二階に引きこもっている。笹子はその家に上がって飯を食ったりしている。他にも面白いキャラクターがたくさんいて、安価な売春と女遊びは生活の中心であるし(涙)、彼らがしている生活が、養育院の生活と対立しながら進行するありさまが面白い。『草根木皮』の政治家と似たような考えかもしれない。
 
もう一つ、薬草まむし酒の名称に「仙方」という言葉がついていること。実はここでまむし酒を売る経緯に、まむしと薬物の中国医学と日本医学の世界のどこに位置付けるのかという難しい議論がある。面白いポイントは、これを仙人と結びつけたことである。方仙は、仙人とかかわりがあり、「不老不死や羽化登仙に到達するのを理想にして行なう方術。仙術。また、そのための霊妙な薬方。仙薬の処方。仙法。」という意味である。これが政治家が民衆に影響を与えるように、薬の力が「万里」に到達するようなまむし酒になるという。この部分は・・・・ぜんぜんわかんなぴ(笑)