必要があって、昔の民俗学の雑誌の民間療法特集号を読む。文献は、「民間療法特集号」『旅と伝説』1935年12月号(通巻96号)
地域ごとに草根木皮を中心に民間療法を紹介する記事をまとめたもの。記述も長さもまちまちだけれども、まあそういうものだろう。同時代の民間療法ブームを反映して、一人の調査者が、その地にもともとあった民間療法なのか、それとも最近の婦人雑誌で覚えてしまったものなのか分からないという皮肉なことを言っていた。
いくつか面白かったものの抜書き。山梨県の上九一色村では、瘡には人頭・馬頭の骨か脳みその黒焼きの粉をなめるのがよいという。この「かさ」というのは、梅毒だろうか。不気味な薬といえば、肥溜めの汁というすさまじいものがあって、これは致死的なものに対する強力な毒消しである。強力な毒でないと、重篤な病気に勝てないということだろう。肥溜めの汁が使われる二つの例は、山犬にかまれたもの(たぶん狂犬病だろう)、ふぐに酔ったときという、たしかに尋常でない事態である。なお、山犬にかまれたときに、肥溜めの汁を飲まないと、山犬と同じ鳴き声をたてながら死ぬという。長野県小形郡平内村では、脚気の転地療法があって、他郷にあるものは自分の生まれたところに帰ると治るという。滋賀県では土地柄マラリアに対する呪法はたくさんあるが、民間薬が比較的少ない。これは、間歇熱を一種のたたりだと信じたためだと思う。
周防大島については宮本常一が書いていて、これは、おどろおどろしいものが集められている。たとえば、つめを火にくべたり髪を燃やすと気違いになる。生まれた子供を外へ連れ出すと死霊がつく。また、女の頭に生霊がつくと、そのついた部分の髪がもつれて解けなくなり、気違い同様になるというのが、かなり怖い。1919年のスペイン風邪のとき、一人の薄汚い坊主がやってきて、わしは弘法大師だが、今年の感冒風邪は八幡さまへまいってトリイを七編まわって油揚げをくうとかからないといい、周防大島の人たちはみな八幡さまにいって油揚げを食べたという。
ついでに、腫れ物の吸出し薬があった。どくだみ 夏になるとあせもの親という腫れ物ができる。どくだみを水洗いして、あさがおの葉につつんで弱火の中でやくと、粘り気が強いものになる。それを紙にのべて腫れ物にはると、一夜で膿を吸い出す。この原理を利用したのが、有名な(笑)「タコの吸出し」だろう。