古典古代ギリシア医学と中世神学者における精神疾患

古典ギリシアの医学テキストと、中世ヨーロッパの神学者たちが、狂気について論じる部分を分析した最近の論文を眺めた。
 
Thumiger, Chiara. "A History of the Mind and Mental Health in Classical Greek Medical Thought." History of Psychiatry.  vol. 29, no.  4, 2018, pp. 456-469, doi:10.1177/0957154x18793592.
 
Hirvonen, Vesa. "Mental Disorders in Commentaries by the Late Medieval Theologians Richard of Middleton,  John Duns Scotus, William Ockham and Gabriel Biel on Peter Lombard’s Sentences." History of Psychiatry. vol. 29, no. 4,  2018, pp. 409-423, doi:10.1177/0957154x18788514.
 
Hirvonen, Vesa. "Late Medieval Philosophical and Theological Discussions of Mental Disorders: Witelo,  Oresme, Gerson." History of Psychiatry. vol. 29, no. 2, 2018, pp. 165-186, doi:10.1177/0957154x17748312.
 
精神疾患、精神医学、精神医療の歴史研究は、それぞれの分野で、多様な方法を用いて、非常に発達している。それを象徴する一つの雑誌が History of Psychiatry である。ヨーロッパやアメリカの知的な駆動力を生き生きと感じる雑誌である。
 
精神医学の歴史には四つの区分がある。神経学的な発見、生物における化学的な基盤の分析、精神医療の行政、そして精神分析である。これらは古代ギリシアやローマの医学は関与していない。しかし、ヒポクラテスを読むと、精神疾患の身体性、感覚の問題、そして精神疾患が持つ宗教・神聖性なども指摘されている。あとは少し細かい議論で、読み飛ばした。
 
中世ヨーロッパの神学者たちを分析した論文はとても面白かった。最初の論文はペトルス・ロンバルドゥスの『命題集』の中の、洗礼、聖体拝領、結婚、遺書などについて論じている部分に、4人の神学者がどのような議論を展開しているかである。最初にとても重要な議論があり、古代と中世の人々が精神疾患を二つにわけて考えたという議論である。一つがネガティヴでパッシヴで欠如によって特徴づけられる精神疾患。 amentia, dementia, insanity, foolishness, stupidity などが特徴である。もう一つがポジティヴでアクティヴで過剰による精神疾患。frenzy, fury, lethargy, mania and melancholia などである。
 
この枠組みを持っており、神学者たちが何を目標にしているかを考えると、難しい問題の基本が非常にわかりやすくなる。洗礼が精神疾患者に授けられるべきか。結婚という二人の合意が必要なことはどう考えるのか。キリスト教の役割と「欠如」「過剰」という概念で考えると、とても分かりやすくなる。