環境史と医学史を考えるマクロ・ミクロな視点について

Sellers, Christopher. "To Place or Not to Place: Toward an Environmental History of Modern Medicine." Bull  Hist Med, vol. 92, no. 1, 2018, pp. 1-45, https://muse.jhu.edu/article/691229.
 
臨床医学と患者の関係についてのいい鳥瞰とこれからの見取り図。ことに、環境史と医学史がどのように重なるべきなのかについて。
 
疾病や医療の問題を考えるときに、疾病が大きな環境によってどう影響されるのかという問題は医師や医療関係者のほとんどが分かっています。マクロなレベルで、環境がどうなのか、エコシステムはどうなっているのか、それがどのように疾病に影響を与え、公衆衛生や地域医療に影響を与えるか、勉強されていると思います。下水道の設立が進んでいない大都市では、赤痢や腸チフスが常に存在することになり、免疫不全ウィルスを持つチンパンジー接触している西アフリカの地域では HIVが発生してくる。これらは大きな環境やエコシステムの影響です。それを取り込んで、臨床を考えることができる。論文もそれに反映します。JAMA (Journal of American Medical Association) や NEJM (New England Journal of Medicine) といったメジャーな雑誌では、論文全体の12%から15%が環境を考えたもの、小児科の雑誌である Pediatrics では25%におよびます。マクロな水準だと、環境の影響として臨床に取り込むことができます。
 
一方、ミクロなレベルだと、医師たちが臨床で分からないことが多い。患者が疾病にかかった場所は、医師の病院から少し離れた場所です。そのため、街の通り、個別の家、そしてその個人が、それぞれのローカルな場所で、ミクロな環境の変化によって、どのように影響を受けるのかが、変わってくる。その可能性を、臨床の中立性を信じることによって距離をとるという発想があります。