ピルという新しい問題ー欧米における避妊の転機
日曜の朝にVogue UK 版をのんびり読んでいて、少し気になった記事があったから読んでみた。予想したよりも大きな内容で、学者として、それから教育者として、まじめに考えなければならない主題である。内容は女性が避妊のために服用するホルモン剤、いわゆる「ピル」である。20世紀後半の避妊を教えるときに、日本の避妊と出生のコントロールは、優生保護法の堕胎手術とコンドームを使うという男性の協力に依存してきたのに対し、ヨーロッパの避妊は1970年前後に入手できるようになったピルに依存してきたという教え方を私はしている。欧米のピルが、当時の女性解放と女性の自立の思想とも共鳴したものであり、女性の自己決定であることも強調してきた。日本の方法が特別悪い解決だとは教えていないけれども、国家の政策と家族主義の産物であることには必ず言及している。欧米の女性の自立的な避妊と日本の国家と家族の産物としての避妊。この対比の支えになっているのが欧米でのピルの利用であった。
しかし、このピルが欧米で多くの女性が疑問に付し、これを再検討しているという。そもそも、10代から継続的に服用し、排卵がなくなるほど身体に介入する薬が、副作用がないわけがない。その部分は頭ではわかっていた。近年の研究が明らかにしているのは、大規模の研究が明らかにしている精神疾患への本格的な影響である。デンマークが100万人の女性を10年以上も追跡した調査によると、うつ病にはっきりとした影響を与えるという。10代の女性でいうと、ピルを服用している女性と服用していない女性のうつ病を較べると、前者は後者の約2倍である。そのために、女性たちがピルから離れて、別の方法を探している最中であるとのこと。コンドームの利用もわりと有力な候補の一つだという。1990年代のHIV/AIDS の流行のときに、コンドームが立派な道具として欧米でも市民権を得たことも関係あるのだろうか。
実は、欧米のピルと日本の堕胎とコンドームの対比は、結構気に入っていた説明だったのだけれども、現在のピルを安定して使っている状況が変われば、新しい研究書も出るだろうし、それを読んでこちらの説明も変えなければならない。
サイトは、その記事で引用されていたサイト。本も出していて、重要な本だとは言われているけれども、誤字や文法の間違いも多いとのこと。いい本が出るまで待とう。もし知っていたら教えてください。
大英博物館の新しい展示―神々と生きること
大英博物館の展示と、それとタイアップしたBBCのラジオ番組が始まった。タイトルは Living with the Gods である。現代という時代にとって、色々な意味で宗教は重要な主題であり、宗教を信じることを見直すことが、これほど大きな世界的な課題になっている時代も珍しいだろう。そのような要求に答えて、大英博物館が大きな展示をはじめた。前館長で、大英博物館で傑出した企画を次々と考案し、それをラジオと結びつけるという素晴らしいアイデアを考えたニール・マクレガーの企画である。博物館のコレクションを用いた「100のオブジェクトを使ってみる文明の歴史」などは、書物が翻訳されたので、日本でも知られていると思う。
15分ほどのラジオ番組もいくつかアップロードされている。そのまま聞くこともできるし、ダウンロードして聞くこともできる。日曜の午前中、久しぶりに仕事をしなくても許される時間になったから、番組を三つ聞いた。最初の番組である4万年前の「ライオン・マン」の話、次の火とその周りに集うことの分析、次のガンジス河の水の儀礼に見られる生命と流れの分析。どれも、深くてインパクトがある話題を短くて分かりやすい番組にまとめていた。英語も素晴らしくて、講義をするのにいい練習になる。
第4回は番組の主題は太陽。番組はまだ聞いていないが、後半にはアマテラスオオミカミの話が出てくるとのこと。
芭蕉と伊良湖岬のタカと鳥の巣の話
オオタカと「蒼」という色
「オオタカ」というタカを時々観ることができる。敏捷で人気があるタカの仲間であるが、名前に反して、これが大きい訳ではない。タカの中では小さい方であり、トビの半分くらいしかない。なぜだろうなと思っていたら、これはもともとは「アオタカ」と呼ばれていて、それが訛って「オオタカ」になったという。
「アオタカ」というなら、どこかが青いのか。オオタカにカワセミやルリビタキのようなきれいな青色があるのか。もちろんそんなことはない。「さえずり」の記事はもちろんそこもきちんとフォローしていて、「アオ」といっても、「青」ではなく「蒼」であり、「蒼」は灰色のことであるという。漢字で書くと「蒼鷹」であるという。灰色の鳥の意味のアオタカからオオタカへ、そこで「大きい」という意味との混線が生じている。議論の筋は、とりあえず了解です(笑)
漢和辞典で「蒼」を引くと、実は二種類の色の意味がある。「蒼天駆ける日輪」は、もちろん青い空の話であって、灰色の空の話ではない。しかし、三番目くらいの意味に「灰白色の」という意味があり、白髪の頭のことを蒼と表現している。ここにいたのか、オオタカの灰色は(笑)
ただ、写真を載せたけれども、腹の色が白いことから「アオタカ」になったのかと開き直って聞かれると、そこもちょっと分からない。
沖の島の禁足の地
日本野鳥の会の季刊誌である Toriino に、藤原新也が連載をしている。いつも鳥とは無関係だが胸に響く文章を書いている。今回もそのパターンで、九州は玄界灘の沖の島の世界遺産についてのいい文章を書いている。世界遺産というと、日本と世界から観光客を呼び込むこと話ばかりになってしまい、虚しい気持ちになることが多いが、沖の島はその反対で、むしろ禁足を強めている部分すらあるという。これまでの禁足の地であった神社の中枢の部分に、写真家として初めて招待されて、そこを撮影することが許されたという。しかし、三日間の滞在で風雨が続き、やはり拒まれたのかと思っていたら、最後の日の朝に、たった15分間だけ、早朝の美しい光に包まれた森を撮ることができたという。Toriino にもその写真が掲載されているが、当たり前であると同時に、魔法と神業のように美しい写真である。
藤原さんは、ヴェネツィアの猫を撮影した写真を観て、非常に感銘を受けた。黒人男性のヌード写真も憶えている。どちらも私が大学生の時に観た作品だと思う。