台湾の「蛮族」についての新刊と戦前日本の台湾の高砂族の精神医療調査について

www.luminosoa.org

 

台湾の高砂族については、1940年代に詳細な精神疾患調査が行われたことを知っている。九州大学の医学部精神科の教授である下田光造が組織して、九大の一流の若い精神科の医師たちが、台湾の原住民である高砂族が生活する山間の空間に入り込んで、精神病にかかった人々を探し出して診断するという巨大なエスノ精神医学のプロジェクトである。素晴らしい論文が刊行されている。この一大企画を含む日本の優生学と精神医療のプロジェクトについては今年の夏に英語で書いた論文が刊行されたので、興味がある方はご一報くださればお送りいたします。

その時に、台湾の高砂族などについて、さっと手に入れて読むことができる英語の文献がないのが悩みだったが、まさにそのような書籍がカリフォルニア大学出版会から刊行され、しかもサイト上で無料で読むことができるとのこと。早速サイトに行ってぱっと見てみた。論文の脇を固めるのに最高のマテリアルで、写真やイラストもたくさんあり、これを論文の刊行前に観ることができていたらと、かなり残念である。もう一度台湾のことについて何か書く機会があったら、きちんと見てみよう。

著作は、Paul D. Barclay, Outcasts of Empire: Japan’s Rule on Taiwan’s “Savage Border,” 1874–1945 である。

越前市・医者通りとロンドンのハーリー・ストリートの思い出

多くの皆さんの家にも宅配されていると思うが、ヴィザカードを使っていると Partner という月刊誌が送られてくる。そこに小林泰彦がイラストと文を書いている「にっぽん建築散策」という記事がある。地図と名所と観光を組み合わせたような内容が、何気ない言葉で書いてある。他の記事がカードで高い商品の買い物をすることばかり書き綴っているので、ほっとするこの記事を読むことが多い。今回は越前市という2005年に武生市今立町が合併してできた市で、旧越前国国府があった地域である。何を意味するのか分からないが、立派な病院・診療所の建築が多く紹介されていた。どれも20世紀初頭に建築されたもので、旧北川医院、長谷川医院、井上歯科医院である。立派な建築の診療所が、市の風格に文化と科学の香りを与えたのだろうと思う。
 
それらの病院とは離れているが、「医者通り」という名前の通りもあった。特に説明がなかったが、面白い地名である。現在のような病院の時代ではなく個人開業医の診療所の時代には、ある土地に優れた医者たちが集まることがあった。ロンドンのハーリー・ストリートがその代表だし、明治の東京では東大に近い本郷のあたりや、海軍軍医たちが診療所をかまえた芝のあたりがそれにあたる。越前市の「医者通り」はどのようにしてできたのだろう。
 
ロンドンのハーリー・ストリートの話。留学中に実佳が腰痛になって、クレジットカード会社の保険に入っていたことがあって、イギリスで私的診療にかかったことがある。普通は無料のNHSだが、これはイデオロギー的には麗しいが、現実はかなりくたびれた部分があった。たぶんそれが背景になって、1990年代にはお金を払えば私的診療を受けることができた。それのみ行っている診療所もあったし、病院のセクターも私的な部門は区分けされていた。実佳がいった診療所はハーリー・ストリートにある私的な患者専門のものである。玄関を開ると広がるモダンで美しいソファがある待合室には噴水があり、女優さんのような白人金髪の美人看護婦たちが微笑み、先生は紳士然として How do you do, madam? と尋ねたという。なんという世界なんだ。そのころ、夫は、NHSの歯科でで無根拠で間違った言いがかりをつけられて、それと懸命に戦っていた。留学中に悪い歯を無料で治すなんて卑怯だという文句をつけられて、いや、帰るわけじゃ無くてしばらくイギリスにいてポスドクをするんだと言い返すという、あまり意味がない言い合いである。それも懐かしい思い出になった。

香港のバイオテック産業のSTS

Luk, Christine Y. L. . "Biotech in Hong Kong: How Biologist-Entrepreneurs Pursued Hong Kong's Bioscience Dream." EASTS 10, no. 3 (2016): 291-313.

 

現代の香港のバイオテック産業を分析した STS の論文。STSというのは、Science and Technology Studiesの略語である。これは印象の上での発言なのだけれども、医学の「歴史」の学者である私から見ると、History という単語を用いるには新しすぎる現代の事例を分析した論文が多い。この論文は、台湾や韓国やシンガポールバイオテック産業のように、これまでSTS の分析対象となってこなかった香港のバイオテック産業に関する初めての論文であるとのこと。


重要なポイントは、香港の政治的な複雑性を反映したバイオテック産業の位置づけがされているとのこと。植民地時代の香港のバイオテック産業自体がこれまで低調であったが、中国との合併の後、遺伝子組み換えに基づくがんの薬が開発され、サイエンスなどの一流誌でもキャンペーンされている。そのときに、香港の政治の複雑性を反映した位置づけがされている。これは、中国のバイオテックの発展としてではなく、「香港生まれの」という意味の「港産」とされているとのこと。そのことは、香港の歴史的な経緯を反映してバイオテックが位置づけられている。しかし、その一方で、もちろん中国の市場なども非常に重要である。

ボードゲーム「パンデミック」の国際感染症対策の学際性について(笑)

Pandemic

www.hobbyjapan.co.jp

 

今年の一般教養は精神医療の歴史で、これから20世紀に入るのだが、これまでなかなかいい授業ができた。来年の一般教養は疾病の歴史になり、古代から現代までの疾病の歴史の話になる。どんな話にしようか考えていたら、研究員の清水さんから「パンデミック」という名前のボードゲームがあることを聞いた。もとはアメリカで作られたらしく、日本語の翻訳版も出ているらしい。ある都市で発生した感染症が世界を席捲して人類は滅亡させるのを協力して防ぐということらしい。そのために複数のプレーヤーが協力して地球防衛にあたる。その際に、科学者、研究員、衛生兵、通信司令員、作戦エキスパート、危機管理官、検疫官の7つの役割のどれかを担うとのこと。このメンツの揃え方が、医学を超えて多くの職業と専門にわたっており、その多領域性というか学際性に改めて驚いている。その多領域性のセンスをつかむためにも、このゲームをちょっとやってみたいのだが、科研費ボードゲームを買うのは難しそうだし、ちょっと読んでだいたいのことが分かる本などないだろうか。

 

学習院大学 明・清の医療市場の歴史についての講演会

www.univ.gakushuin.ac.jp

 

11月24日の17時より、中央研究院の祝先生による中国医学史の社会史的な側面についての講演が行われます。欧米では30年ほど前に主流となった分析手法ですが、この手法をアジアで最初に定着させ、実践したのは台湾の中央研究院でした。

 

「明・清時代の医療市場・医学知識と医病関係」

明清時代の中国では、誰もが医師の看板を掲げることができた。
当時、病人はどのように医師を選び、医師と病人との関係はどのようなものだったのだろうか。
良医に巡り合って質の高い医療を受けるのは、まさしく”仏縁”のようなものだった。
前近代中国の医療をめぐる社会心性史をテーマとする。

日時: 11月24日(金) 17:00~19:00
会場: 中央教育研究棟4階 405教室
講師: 祝平一 氏 (台湾  中央研究院歴史語言研究所研究員)
通訳: 許家晟 氏 (学習院大学国際研究教育機構PD共同研究員)
主催: 外国語教育研究センター
共催: 東洋文化研究所アーカイブズプロジェクト「学習院大学所蔵漢籍の調査」セクション

※講演は中国語で行われます(通訳有)

事前予約不要・入場料無料です。
興味のある方は是非ご参加ください。

2018年 Taniguchi Medal の応募要項

東アジアの医学史の若手研究者への賞に Taniguchi Medal があります。2年に一度、若手の英語論文を公募して優秀作品が選ばれる仕組みです。以下の要領で、今年も行われます。ご応募ください!

he Taniguchi Medal commemorates the great contribution of Mr. Taniguchi Toyosaburo, whose foundation supported the International Symposium for the Comparative History of Medicine East and West over the course of twenty-three consecutive years (1976-1999).

 The Medal will be awarded at meetings of the ASHM to a graduate student for an outstanding essay (whether published or not yet published) on some aspect of the history of medicine. Any graduate student (as of Feb 20, 2018) who meets any one of the following criteria is eligible to apply: 1) is enrolled in an Asian university, 2) works on Asian medicine, 3) is of Asian nationality.

The recipient of the Medal will be invited to attend the 2018 ASHM Meeting courtesy of the Society.

Submission of Essays and Award for 2018:
1.      Paper format: an article in English, double-spaced, maximum 20 pages in length.
2.      Submissions must be accompanied by a nomination letter from a faculty advisor
3.      Deadline for submissions: February 20, 2018
4.      Review by notification: April 10, 2018
5.      The Medal will be awarded at a joint meeting of ASHM and HOMSEA (History of Medicine in Southeast Asia) to be held in Jakarta, Indonesia on June 27 to June 30, 2018.
6.      Please submit your essay to both of the following addresses:
1)     ashm@mail.ihp.sinica.edu.tw
2)     Secretariat, Asian Society for the History of Medicine, Institute of History and Philology, Academia Sinica, Nankang 11529, Taipei, TAIWAN


(http://www.ihp.sinica.edu.tw/~medicine/ashm/)

 

三田祭企画― LGBTQ

慶應三田祭で LGBTQ の展示が行われます。25日の夕刻にはスペシャトークイベント。お時間を見つけて、ぜひおいで下さい。
 
Keio Qは、11月23日から26日まで行われる第59回三田祭にて「Be an LGBTQ Ally!」という名前の常設展示を行います。
 
展示では事前に集めた性的マイノリティやアライ、多様性に関するメッセージをパネルにて発表し、ご来場いただいた方々にもメッセージをご記入いただけるボードを用意します。こうしたサポートの声を可視化することで、性的マイノリティやアライを含む多くの方々を力づけることが目的です。
 
また、25日(土)16時から17時までスペシャトークイベントの企画もしております。以下の3名の方々をイベントにお招きし、更に3人の慶應大学の現役生と一緒に、ご自身の経験を振り返りながらLGBTの現状やの展望について意見を交わしあうセッションです。ご都合よろしければこちらの方にもぜひお越しください。
 
スペシャトークイベント詳細
日時:2017年11月25日(土) 16:00 - 17:00
場所:慶應義塾大学三田キャンパス第一校舎123教室
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スピーカー
佐久間亜紀教授(慶應義塾大学教職課程センター)
寺田和弘さん(デンマーク大使館上席政治経済担当官、NPO
EMA日本理事長)
増原裕子さん(株式会社トロワ・クルール)
他 LGBTQの塾生3名
 
twitter: @KeioQueer