Chistopher Hamlin, Cholera (2009)

Hamlin, Christopher, Cholera: the Biography (Oxford: Oxford University Press, 2009)
誰がコレラを問題として取り上げるかという問いは、大きな問題であった。コレラは、もともとはインドにおける土着の風土病であり、その存在自体は問題ではなかったが、それを経験したことがない世界に広まったという経歴を持つ。コレラは、常に、差異化の軸であり、場所と民族を分ける方法であり、他人を軽蔑する媒介であった。他の疫病と同じく、コレラには結合する力もあったが、分割する力の方が大きかった。ちなみに、「コレラ」という病名自体はヨーロッパ医学に古くから存在した病気であるが、その「古いコレラ」には、そのような力は存在しなかった。(日本の「霍乱」にその力が存在しなかったように)

コレラにそのような特徴を与えたのは、19世紀の主流の政治・社会思想であるリベラリズムである。病気によって、身体の利用・交換価値が下がり、貧困と絶望の悪循環に陥る。

ヨーロッパのキリスト教徒たちは、神に祈り、それと同時に、消毒や検疫などの行動をした。祈りが行動の代わりになるから祈るだけでよいという、愚かなものたちもいた。これは、アジア、特にイスラム教徒と同一視された。ここに、oriental fatalism というステレオタイプが現れた。