1815年のタンボラ火山の大噴火とコレラ菌の突然変異

http://www.lrb.co.uk/v37/n03/thomas-jones/awfully-present

 

LRBで読んだ記事が面白かったのと、医学史上の重要なポイントがあったのでメモ

 

タンボラ火山はインドネシアの火山で1815年に大噴火した。その噴煙や火山灰などは数年間地球の大気に漂って異常気象を引き起こし、世界の気候に大きな変動を与えた。この噴火は自然現象のおける変化にとどまらず、社会・文化・政治に影響が与えられた。それを探ったのが本書である。火山の噴火の大きさを測る Volcano Eruption Index (VEI) という指標がある。その指標の最高は8で、言葉で形容すると「世界の終末のような(apocalyptic) 」と表現されるものだが、これはこの数万年間は起きていない。その次の VEI7は、過去5,000年間で5回起きており、本書の主題のタンボラ火山はこれにあたる。紀元79年に噴火し、ローマのポンペイを滅ぼしたことで有名なヴェスヴィウスや、1883年に噴火したクラカトア島の火山は、VEIが6というから、タンボラ火山の1815年の噴火は、巨大なものであったことがわかる。噴火して空中に放たれた砂や灰などは160立方キロメートル。そういわれてもピンとこないけど、ナイアガラの滝を流れ落ちる水でいうと、9か月分にあたるという。

 

この噴火(そして、1806年のまだ同定されていない噴火もあるとのこと)によって世界各地で異常気象が引き起こされ、さまざまな変化が経済、社会、政治、文化に起こされたという議論は、このタイプの著作の一つの紋切り型の方法論と呼んでもいいので、LRBは面白く書いていたけれども、ここにはメモしない。重要なのは、コレラの流行の件である。コレラはもともとはベンガル地方の風土病だったが、1817年にはじめてベンガルの外に及ぶ流行を始め、19世紀のパンデミックな流行病になった。世界の公衆衛生の制度が類似している一つの理由は、この記事に世界の各国は同じ感染症と闘っていたためである。敵が同じだからそれに対する対策が似てくるのは、世界の公衆衛生のシステムが似ていた重要な理由であることは覚えていたほうがいい。そうすると、なぜコレラがインドの風土病からパンデミックな病気になったのか、それも1817年の少し前にそうなったのかという問いに答えなければならない。この問いに、この書物はもちろん「それは1815年のタンボラの噴火のためだ」と答えるのだが、LRBが面白いことを書いていて、現在のコレラ菌の遺伝子を調べると、重要な突然変異を起こした時期が特定できるとのこと。それによれば、1817年のパンデミーの始まりの少し前に変異を起こしており、その変異は、コレラ菌が生活していた環境の変化に由来するとのことである。そうか、そういう理屈の立て方があったのかと感心した。少なくともその部分はきちんと読まなければならないし、あと世界の連関の様子も授業で使えそうなので、この本をKindle で買った。