ソンタグとがんのメタファーについて

 

Clow, Barbara, “Who’s Afraid of Susan Sontag? Or, the Myths and Metaphors of Cancer Reconsidered”, Social History of Medicine, vol.14, no.2 (2001), 293-312.

 

スーザン・ソンタグの『隠喩としての病』(原著1978)は、20世紀末に起きた病気と医療に対する態度の転換に深く関係する書物。『隠喩としての病』は、本人が42歳で乳がんと診断されて手術を受けた後に書いた作品であり、その基盤には、20世紀中葉のアメリカががんに与えていたさまざまな比喩を本人自身が経験したという経緯がある。ソンタグによれば、その比喩は患者をして屈辱の沈黙を強いるようなネガティヴな比喩であったという。

 

この書物は、もともと組織的なリサーチに基づいた学術的な著作ではなく、むしろ博識と深い洞察と美しい文章に特徴がある書物だから、この著作の主張を批判する学者が現れるとはあまり思っていなかったが、2001年に現れたこの論文はいくつかの重要な手法を用いている。一つが、新聞や雑誌などの死亡記事の分析である。現在でも死亡記事で避けられる言葉や病名があると聞くが、20世紀前半の北米の死亡記事は「がん」という言葉や、それを想起させるような言葉を避けていたのかどうかという分析をしている。もう一つが、医師たちが若い医師や医学生に、口にしにくい診断を伝える方法を書いたある教育書などを分析する手法である。このようなマテリアルを用いて、ソンタグががんのネガティヴな比喩を強調したのは、単純な枠組みであったと記している。がんについて、読んでおかなければならない論文の一つ。