拒食症の歴史


必要があって、拒食症の歴史の古典を読み返す。文献は、Brumberg, Joan Jacobs, Fasting Girls: the History of Anorexia Nervosa (New York: Vintage Books, 2000).

オリジナルは1988年の出版で、拒食の歴史を描いたものとして、中世の拒食聖人を扱った キャロライン・バイナムの書物と並んで双璧の名著で、拒食の歴史にとどまらず、広がりがある「身体の歴史」を確立した一連の著作の一つである。読み返したのは19世紀の後半に、イギリスやアメリカの各地で「断食娘 fasting girls」が話題を呼んでメディア・セレブリティになり、その正当性をめぐって医学と宗教が争った事件の分析を置いて、それを背景にして、イギリスのガルとフランスのラゼーグが同じ年(1874年)に発表した別の論文で、ヒステリーや神経病をもとにして、拒食症という病気を取り出していく力学を分析している。特に、ラゼーグについての分析はさえている。19世紀のベル・エポックを謳歌していたフランスの家庭における「きしみ」が、若い娘の身体に凝固したものであると「見抜いた」というもので、実に20年前の分析だけれども、いま読んでも読み応えがある。

今回、学生に推薦する本を探していて少々驚いたのだけれども、拒食についての英語の書物は何冊も出ていて、どれもいい本だと思うけれども、その中では必ずしも熱烈推薦はできない一冊が青土社から翻訳されている。この本は、『ピーターパン』の作者のバリーは、まるで体重がないように軽々と空を飛べる男の子を主人公にした作品を書いたから、拒食だと推察されるとか、その手のことを書いてしまう本である。学術性、読みやすさ、商業性、どれをとっても、ブランバーグに較べると大きく見劣りすると思うんだけど。

イラストは、1874年のガルの論文より。拒食症:治療前と治療後のイラスト。