加藤尚武先生の『バイオエシックスとは何か』という書物は、大きな字で印刷されているが、とてもいい書物である。哲学と歴史の関係は面白いもので、医学に関する哲学的な分析は、医学の歴史的な分析と、どのような関係になるのか、私もよく分からない。先日、金森先生のお仕事と医学史というよく分からない主題の仕事をしたときに、哲学と歴史の関係の分からなさはある意味で続いたけれども、哲学からのメッセージが大きいことも実感することができた。加藤先生の書物の前半部分も同じである。ことに、技術に関する議論と、イギリスの哲学者であるジョン・ロックについての議論の二つが素晴らしかった。
技術は運命という名の自然的選択を、人間の手にかかる、それゆえに選択的な選択に置きかえる。
技術は、一般的にそれまで自然の運命の手にゆだねられていたものを、人為的な処理可能な形に置き換えるものなのである。