20世紀の中国医学における母乳論

大道寺慶子「『婦女雑誌』の母乳育児論に見る身体と近代」
 
大道寺さんのとても良い論文。1915年から1931年の上海で刊行されていた月刊誌『婦女雑誌』に掲載されている母乳論が分析の核。この20世紀の中国の女性用雑誌の内容を分析するのに、4つの軸がある。一つが中国医学の伝統的な考えと比較すること、第二に上海で起きている女性の母乳問題に組み込むこと、第三に当時の欧米の母乳論・社会運動と較べること、そして第四に同時代の日本の類似の雑誌『主婦之友』と較べることである。母乳というのは、もちろん医科学だけの問題だけではなく、社会や文化の問題とも密接に組み合わさっている。
 
乳汁は気血の変化した一形態である。乳母の血気が乳汁になる。乳母の体液と気の状況が乳汁に大きな影響を与える。彼女のさまざまま症状が乳汁に悪い影響を与える。姿形、わきが、体が曲がっていること、咳、かいせん、痴呆、淋病、白禿げ、瘰癧(るいれき)、潰瘍、口・耳の障害、鼻が詰まっている、癲癇などである。こうした症状がない乳母は雇ってよろしい。これは乳母の心性、心情、行いであり、気質である。これは、女性の身体から分泌されるものがつながっていることである。経血と乳汁の同類性である。李時珍『本草綱目』では、母乳は陰血に由来し、脾や胃より生ずる。妊娠がないときには普通の経血に、妊娠すると体内の液体に、出産すると赤が白に替わって乳汁になる。だから、生母が妊娠中に胎毒にかかる。食事、辛いもの熱いもの甘いもの脂っこいものなどを取り過ぎたこと、生活の乱れ、五臓の乱れである。 経血ー悪露ー乳汁の流れである。