- Hanley, Susan B. Everyday Things in Premodern Japan : The Hidden Legacy of Material Culture. University of California Press, 1997.
- Rotberg, Robert I. Health and Disease in Human History : A Journal of Interdisciplinary History Reader. The Journal of Interdisciplinary History Readers. MIT Press, 2000.
- Hanley, Susan B. "Urban Sanitation in Preindustrial Japan." The Journal of Interdisciplinary History 18, no. 1 (1987): 1-26.
山梨のコレラ・長崎のコレラ
パヴロフの伝記
Todes, Daniel Philip. Ivan Pavlov : A Russian Life in Science. Oxford: Oxford University Press, 2014.
イヴァン・パヴロフはロシアとソ連の生理学者・神経学者で、イヌにベルの音を聞かせて餌をあげる条件反射の研究で名高い。ノーベル賞の受賞は1903年でロシアの時代であり、そこからロシアは1917年にロシア革命を経験するという政治体制の激しい変動に向かうが、パヴロフはこの変化によく対応して、優れた研究の利権を提供され続けていた。ロシア革命の後のソ連にとって、体制に協力的な世界的に著名な医学者の一人であり、その脳と神経の重視は現代の神経と精神の研究の基盤を形成した。
その偉大な医学者についての原基となる伝記である。細かい活字で850ページの大著で、50章立てでパヴロフの生活、科学、研究体制、政治などのさまざまな側面を論じている。犬は実験対象というよりも個性と性格の違いを持つ作業員であったかのようだったこと、それを利用してフロイトの症例アンナ・Oと結びつけた生理学的なヒト/イヌの行動モデルを作ろうとしたこと、精神医療にも積極的に関与しようとしたことなどが、詳密に描かれている。秋学期は、パヴロフで一時間の授業をしよう。
試しにスライドを一枚作ってみた。いずれも1904年くらいのサンクトペテルブルクの研究所から。上段にはイヌの実験と合間の楽しい外出の写真を、下段には建物の地下に作られたイヌの飼育場と廊下に一列に並ぶイヌの檻の写真である。
日本の医学者にも多少言及しているが、1930年代に留学して慶應医学部の生理学の教授となった大脳生理学者の林髞(はやしたかし)は言及されていなかった。
夜長姫と耳男ー蛇の生き血と二つの疫病について
江戸時代の民間治療
眠竜翁, 宗哲 奈良, 正哲 前川, 政章 木内, 獨妙 申斎, 増業 大関, 恵 浅見, and 健 安田. 耳順見聞私記 . 袖珍仙方 . 竒方録 . 漫遊雑記藥方・農家心得草藥法 . 妙藥手引草 . 掌中妙藥竒方. 近世歴史資料集成. Vol. 第2期 ; 第10巻 . 民間治療 / 浅見恵, 安田健訳編 ; 3: 科学書院
霞ケ関出版 (発売), 1996.
浅見, 恵, and 健 安田. 救急方 ; 萬方重寶秘傳集 ; 懐中備急諸國古傳秘方 ; 藥屋虚言噺 ; 寒郷良劑 ; 此君堂薬方. 近世歴史資料集成. Vol. 第2期 ; 第11巻 . 民間治療 / 浅見恵, 安田健訳編 ; 4: 科学書院
霞ケ関出版 (発売), 1995.
青木, 歳幸. 江戸時代の医学 : 名医たちの三〇〇年. 吉川弘文館, 2012.
新村, 拓. 日本医療史. 吉川弘文館, 2006.
近世歴史資料集成には医学や医療に関するさまざまな有益な刊本などを復刻しており、私も時々眺めてみたことがある。今日は、久しぶりに締め切りを気にしなくていい日曜の朝で、未読本コーナーで強い存在感を出していた民間治療に関する書物をぱらぱらと眺める。とても面白いマテリアル。優れた研究はもう出ているのだろうか。
青木先生の記述によると、18世紀初頭の享保の改革の時期に、徳川吉宗のリーダーシップで日本の医療の大規模な改革が始まった。その中に、薬物の生産と輸入と流通に関する改革があり、庶民が中国や日本の医学書と系列を持つ疾病の治療の知識を持つようになったり、合理的な医療を手にするための知識、書物、一定の制度などが作られることになった。きっと、この流れの中で読み取るのが安全な道なのだと思う。ただ、医学書と系列を持つとか、合理的であるとか言ったときに、何をそういうのか、どこで合理性と非合理性が切れるのかということは、かなり立ち入った本気の分析が必要になるだろう。
もう一つ面白いことを。書物のフォーマットの問題である。民間治療本がどのような構成になっているのかという問題でもある。まず、症状モデルと呼ぶものがあるとすると、読み手は自分の症状を知り、そこから本を調べて、治療法を知るという道筋を想定することになる。このような本は、症状から調べることを前提にして作られているはずである。これをまず最初に出した理由は、医者に行くときのモデルをもとに作られたものだからである。医者にいくと、私はこのモデルで行動することが多い。お医者さんに症状だけを切り取って話して、必要な治療法を先方に判断してもらう。馬鹿で素直な患者である(笑)
この症状モデルで作られた本は、もちろんある。私が子供の頃に愛読していた『家庭の医学』は基本的にはこのフォーマットであった(その性的倒錯の章は特に何度も読んだが、その話に行くと話がずれるからしない)。しかし、民間治療関連の書物の名著は、意外にこのフォーマットで書いていない。『養生訓』のフォーマットは、社会と家族と人間と人体のフォーマットを説明しながら、そこに養生の洞察を埋め込んでいくという方式だし、松田道夫の『育児の百科』は、子供が生まれてからの時系列でフォーマットを並べてある。同じように、江戸時代の民間治療の書物のフォーマットは、現代の臨床モデルになっていないもののほうが多い。この部分は、調べて考えると面白いと思う。
症状にどんなものがあるか。西欧の類書と較べたときの大きな違いは、やはり熱 Fever という概念が非常に薄いことだと思う。疾病の名前でいうとペストとマラリア、概念の名前でいうと四元素説で、「熱」は西欧では大きな概念であった。それが、あきらかに欠如していると思う。
『萬方重實秘傳集』には、顔相術の話や、そろばんの珠ではなしをするシステムなど、面白いことが書いてあった。
立ち食いの駅そばについて
駅そばを立ち食いで食べるのが好きだ。東京の立ち食いそばは、あまりにも安物だとか、そば色をしたうどんであるとか、色々と良くない真実があって、それほどいかない。あと、東京でそばを食べるなら、少しまじめになって座って食べることが多い。でも、他の街だと、立ち食いそばは主力の一つかもしれない。大阪にいくと新大阪のどこかのホームで立ち食いうどんを食べ、名古屋に行くと新幹線の駅のホームで立ち食いきしめんをたべる。どちらもかなり美味しい。本当ですよ。
駅そばの王者は、京都の新幹線コンコースのにしんそば「松葉」だと思う。京都駅の新幹線コンコースは、京都観光を30分でできる天国のような場所で、唐辛子を買って八つ橋を買って漬物を買って、にしんそばを食べて新幹線に乗ればいい。ここは座れるし、お酒とおつまみもあるし、着物を着た女性が「おいでやす」とか言ってくれる。学会の前によく人と会うところを見ると、かなりの人気がある。本店は京都の名所にあるとのこと。
精神疾患の写真と患者の経時的な人生について
Pearl, Sharrona. About Faces : Physiognomy in Nineteenth-Century Britain. Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 2010.
第5章・6章が、19世紀後半のイギリスの精神医療における写真の利用を論じている。ヒュー・ダイアモンド、ジョン・コノリー、チャールズ・ダーウィンやフランシス・ゴールトンといった著名な精神病医や科学者などが、写真をどのように精神医療の研究に取り込んだかを分析している。
興味深いのが、著者が diagnostic photography などの語で表現している分析の視点。もともと写真はある時間の断面を切り取るのだが、そこに計時性があるエレメントを入れると、患者の精神病の解釈に「これまでの人生」という側面をもたらすことができる。だから、患者の長期にわたる貧しさを強調して貧困が精神病の原因であることを論じ、破れた恋が精神病の原因であることを論じるために、患者に黒のショールと花冠をつけた『ハムレット』のオフィーリアのような衣装を着させる。
Pearl, Sharrona. About Faces : Physiognomy in Nineteenth-Century Britain. Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 2010.
Chapters Five and Six deal with physiognomy in the context of psychiatry, focusing on the prominet images and texts of Hugh Welch Diamond, John Conolly, Charles Darwin and Francis Galton. One interesting analytical framework is the idea of what the author calls "diagnostic photography". Psychiatrists and photographers added crucial elements in the images of mad patients, in order to incorporate various meanings and messages into the photographic images and deliver a certain type of interpretation about the causes of mental illness and the present status of psychiatry. Since they wanted to emphasize the negative influence of poverty, they incorporated signs of poverty into the images of mad patients. Their stress on the effect of failure in love led to women who were dressed as an Ophelia with a black shawl and garland.