Todes, Daniel Philip. Ivan Pavlov : A Russian Life in Science. Oxford: Oxford University Press, 2014.
イヴァン・パヴロフはロシアとソ連の生理学者・神経学者で、イヌにベルの音を聞かせて餌をあげる条件反射の研究で名高い。ノーベル賞の受賞は1903年でロシアの時代であり、そこからロシアは1917年にロシア革命を経験するという政治体制の激しい変動に向かうが、パヴロフはこの変化によく対応して、優れた研究の利権を提供され続けていた。ロシア革命の後のソ連にとって、体制に協力的な世界的に著名な医学者の一人であり、その脳と神経の重視は現代の神経と精神の研究の基盤を形成した。
その偉大な医学者についての原基となる伝記である。細かい活字で850ページの大著で、50章立てでパヴロフの生活、科学、研究体制、政治などのさまざまな側面を論じている。犬は実験対象というよりも個性と性格の違いを持つ作業員であったかのようだったこと、それを利用してフロイトの症例アンナ・Oと結びつけた生理学的なヒト/イヌの行動モデルを作ろうとしたこと、精神医療にも積極的に関与しようとしたことなどが、詳密に描かれている。秋学期は、パヴロフで一時間の授業をしよう。
試しにスライドを一枚作ってみた。いずれも1904年くらいのサンクトペテルブルクの研究所から。上段にはイヌの実験と合間の楽しい外出の写真を、下段には建物の地下に作られたイヌの飼育場と廊下に一列に並ぶイヌの檻の写真である。
日本の医学者にも多少言及しているが、1930年代に留学して慶應医学部の生理学の教授となった大脳生理学者の林髞(はやしたかし)は言及されていなかった。